意外。と言えば意外
当然。と言えば当然

「ふふふ、高いね〜モルさんも大きくなるのかなぁ〜?」

子供、というかアラジン君と遊んでいるマスルール
楽しいとか嫌だとかよりも、どう接して良いか分からないっていう顔をしている

最初はジャンケンをしていて
次はパパゴラスを呼んで餌まきして
地面に寝転がったり眷属器を見せてみたり
今はアラジン君を肩車してその辺を歩いている

というのも今日はヤムライハが居ないのです
お仕事で王宮や中心街から少し外れた場所に行かなきゃならないため、一時的にアラジン君を預かっている
アリババ君はシャルルカンと練習中だし、モルジアナちゃんは何を考えたかピスティが連れて行ってしまった
多分、ヤムライハが居ないから女の子居なくて淋しいんだろうな
私は、ジャーファルから恋人のマスルールのお目付け役を貰ったので、傍から2人を眺めている

「セレーナおねいさん見ておくれよ!」
「どうしたの?アラジ…」

アラジン君が嬉しそうに呼ぶ声で顔を上げると、それはもう色とりどりの花を頭に撒き散らされたマスルールがいた
申し訳ないけど花飾りを頭に乗せる姿はミスマッチ以外の何物でもない
必死に笑いを堪えて微笑み返した

「素敵。アラジン君が作ったの?」
「うん、此処のを使ったんだ」

此処、と指差す先は花壇
…あれ、これって誰かが大切にしてた花壇じゃなかったかな
冷や汗を流しながらマスルールを見ると、何を感じ取ったのか、私とアラジン君を両脇に抱えて王宮を走り抜けた

「逃げちゃダメよマスルール!罪が余計重くなるだけだから!」
「気付かなかったってことで、ひとつ」
「どうかしたのかい?」

アラジン君の笑顔だけがこの空間に不釣合いである
ともかく、逃げてしまったことは仕方ない
そのまま中央市をふら付く
時間帯が少し早いせいか、まだそんな活気はないけれど、マスルールが居るおかげで目立つ

体格の良い赤い髪の男
対照的に小さく、青く長い髪の男の子
普通よりやや細めで異様に長い髪の女

まあ、これはマスルールが有名無名関わらず、目立つかな

「美味しそうだねぇ…」
「ほんと。これは今焼いてる最中ですか?」
「もう少しで焼けますよ。良ければ待っててください」

2人でその周囲の露店を眺める
綺麗な貝のネックレスをお揃いで買った時、さっきの店のおじさんが声をかけてくれた
南海生物を串刺しにした美味しそうな物が焼きあがっている

「はい、どうぞ」
「有難うございます。おいくらですか?」
「いやいやいや大丈夫ですよ!いただきましたし、そうでなくともいただきませんよ!」

おじさんの反応に首を傾げる
結局払わずに中央市を歩いていると、隣にマスルールが居ないことに気付いた
…いつから居なかった?あの店の時点で居なかった気がする

「アラジン君、マスルール知らない?」
「そういえば居ないね。迷子かな?」
「すぐ分かると思うんだけど…ちょっと気をつけながら行こうか」

これ以上人とはぐれないように、アラジン君と手を繋ぐ
活気付いてきた市を見てまわっていると、前方に赤髪が見えた
駆け寄るとマスルールが熱心に何かを見ている

「マスルール!」

私が声をかけるとびくっと肩を揺らした
珍しい。いつもは先に気付いて振り返っていたのに
アラジン君にせがまれて、アラジン君を真ん中に3人で手を繋いで歩く

「あの服可愛いなぁ」
「本当だ。セレーナおねいさんによく似合うよ」
「ふふ、有難う。あ、ジュースがある!」
「…買ってきます」

私達の返事を待たずにマスルールが露店へ向かう
でもアラジン君は手を離す気が無かったらしく、ずるずると引っ張られる形で私達も着いて行く
ジュースを2つ買おうと話しかけたら、お店の人は驚いた表情と和やかな表情をした

「これはこれは…おめでとうございます」
「えっ」
「いつご発表なさるんですか?」

これは、この反応からして完全に親子に間違われている
髪の色も顔立ちも全く似てないのに、どうしてそんな突飛な発想ができるんだか
「違います!」と否定しようとしたら、アラジン君が嬉しそうにジュースを受け取ってお礼を言った
ああ…否定し辛くなったよ

何とか代金を払ってその場をすぐ去ったけど、次から次へと言われていく
正直なところ恥ずかしい
これがマスルールと2人ならともかく、今は無関係なアラジン君がいるのに

「ごめんねアラジン君」
「…?どうして謝るの?」
「えっ、あ、いいの!何も無いの、気にしないで!私そこの料理買ってくるね」

手を振り切って人ごみの中に紛れていく
よくよく考えたらアラジン君はまだ子供だから、そういうの気にしてないよね
1人盛り上がっていた気がして恥ずかしさが倍増した

「った!」

人にぶつかって盛大にこけてしまった
咄嗟に謝ったけど、誰とぶつかったのか分からない
起き上がる時右足首に痛みが走った。捻ったのかな

「…セレーナ」

立ち上がって土を払っていると背後から声をかけられた
見ると、アラジン君を片腕で抱えている
親子っていうよりは兄弟に私には見える

「今度はセレーナおねいさんが迷子になるよ」
「そうだね、ごめんなさい。ちゃんと傍に…?」

マスルールが屈んだ
太股辺りに腕を回して一気に立ち上がる
思わず悲鳴を上げてマスルールに抱きついた

「び、びっくりした…」

咄嗟に首に腕をまわして抱きついてしまった
悲鳴に人々が振り向いたと思ったら、おお…という声が上がる
違う、違うの!ああでも嬉しくて違うという言葉が発せない

「皆小さく見えるねぇ」
「そ、そうね…マスルール、私歩けるから降ろしてもらっても大丈夫」
「帰って手当てをしないと悪化します」

じっと捻った足首を見ている
勘が良いマスルールにはどうしても勝てない
大人しく頷くと、このままの状態で王宮へ向かいだした

町の人達が、これでもか!というぐらい応援してくる
お願い。早く通り抜けて。来た時ぐらい早く
そんな願いとは裏腹に、マスルールは突然立ち止まって私達を降ろした

皆が見守る中、小さな箱を取り出した
開けて取り出したものを私の手のひらに握らせる
そしてまた私達を持ち上げた

「俺が持っていても無くすんで、持っててください」
「これ…指輪?モルジアナちゃんにでもあげ…!」

どっ!と歓声が響く
しまった。声に出してしまった
押し寄せる人の波にマスルールは適当に会釈して進んでいく
王宮に着く頃には、私達は貢物まみれになっていた

「よーアラジンお帰り!…どうしたんだ?」
「町の人に貰ったんだー!」

訓練帰りのアリババ君に見つかって、アラジン君がにこにこと自慢している
花に貴金属に布に果物に酒に…とにかくあの市にあった物殆どが集められた
緑射塔前で降ろしてもらうと、いくつか貢物を手渡された

「これはマスルールにでしょう…?」
「俺とセレーナ宛なんで問題ないです」
「町の人に誤解させて…謝りにいかなきゃ」
「はあ…」

嬉しいけれど誤解はちゃんと解かなくちゃ
そう言うと先程渡された指輪を取られた
返すの忘れてたなぁと見ていると、その指輪は私の指に納まった

「誤解ならちゃんと断ってます…」
「…う、うそ!モルジアナちゃんと兄妹だって誤解面倒だからそうですって答えたじゃない」
「アレはまあ…置いといて」

都合の悪いことは覚えてないんだな
睨み上げると予想以上に近くに顔があった
驚いて後退るも、いつの間にかまわされた腕が邪魔をする

「親子…嫌でしたか」
「…嫌なら、声を張り上げて断ってます…」

良かった。そういうような表情でキスをされた
恥ずかしさよりも嬉しさが勝って、私は笑顔でキスを返した

「ちゃんとしたのはまた買いますんで」
「2人で選びに行く?」
「3人でも別に良いですよ」

私のお腹を指差して言う
今度は恥ずかしさが勝って、何も返せなかった
けど、いつか、遠くない未来にそうなれば良いと、手を振りながら駆け寄ってきたアラジン君を見て思った
その時までには子供が苦手じゃなくなると、もっと良いのだけど









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