なんだかんだ言っても縦社会
上司との付き合いも大事です

ということは百も承知
承知の上で言いたいのは、酒は良いけど、女はダメ

ここ最近シャルルカンはシンドバッドを連れていけないからか、マスルールを連れて飲みに行く
ただお酒を飲みたいからなら構わない
けど、お店には酒だけじゃなく華もあるわけで

「…ダメだ、気になって仕方ない」

今日もまた飲みに行ってしまった
部屋で我慢して帰りを待っていたけど、私はあまり大人しいほうじゃない
こうなったら見に行って安心するしかない

マスルールのことだから浮気とかはないと思う
女の子と飲んでいても他のことを考えているに違いない
よく行くお店の前でどうするか悩んでいると、主人らしき人が突然腕を掴んできた

「お前どこ行ってたんだ!ほら早く支度しろ!」
「え、ええ!?」

違いますと言っても聞く耳持たず
私は控室に放り込まれた
同時に放られた衣装や装飾品達を広げてみる

煌びやかで、とてもじゃないけど私には似合わない
今だってこんなみずぼらしい服を着ているのに
もう一度抗議しようと決心したら、次々と綺麗な人が入ってきた

皆スタイルが良いし凄く可愛い、綺麗
どうしよう、いくらマスルールとはいえこれは危ないかもしれない
変な焦燥感に駆られて私は隅でいじけていた

「新入りさん?」

ふと優しい声がして見ると、黒髪の優しい面立ちの女性が立っていた
私を見て微笑むと衣装や装飾品の付け方、化粧の仕方を矢継ぎ早に教えてくれた
有難いけど、私別にお店に出るわけじゃないんだけどな

「貴女とっても綺麗よ。はい、出来上がり」
「あ…有難うございます」

お礼を言ってみるけど自分じゃ分からない
というか流されてるけど、早く誤解を解かなきゃ
そう思って控室を出ると女性の黄色い声が聞こえた

「シャルルカン様いらっしゃいー!」
「きゃあ!今日はシンドバッド様もご一緒よ!」

あれ、今日はマスルール居ないの?
歩みを止めて声のする方向を見る
女性の人だかりができている2人の後ろで呆れかえった顔のマスルールが居た
良かった。あ、いや、良くない良くない

3人が座る位置を見極めて、その傍で見えない位置にこっそり隠れる
シンドバッドは久しぶりの酒だからかペースが早い
…この人、本当に仕事終わらせてきたのかな

シャルルカンもきゃあきゃあ言われながら楽しそうに喋って飲んでいる
シンドバッドを挟んで、マスルールも酒を飲んでる
予想通り、自ら話しにはいってない。少し安心した

「マスルール様って寡黙で素敵ですね…」

油断していたところにうっとりとした声が届いた
先程の女性とまではいかないものの、可愛らしい子がぽやーっとした瞳で見ている
目付きが悪くて可愛くない私とは真反対だ

「はあ…どうも」
「お付き合いされてる方はいるんですか?」
「…」

え、ちょっとなんで黙るの
首を縦に振るだけでもいいから振りなさい
1回でも100回でもいいから振りなさい
思わず前のめりになりながら首を振るのを待つ

「あら、貴女も挨拶に行きなさい?この国の王様なんだから」
「い、いえ私は…!」

身を乗り出しすぎて隠れていたのがバレた
いいって言ってるのにずるずると皆の前に引っ張り出された
どうしよう笑われる!突っ込まれる!

「シンドバッド様、新しい子です。良くしてあげてくださいね」
「ん?…おー、別嬪さんだなあ!膝に乗るか?」
「…?え、いや、あの「遠慮するなって!」

シンドバッドに腕を引かれ、女性に背中を押され、膝に座らされた
ダメだ、この人酔って判別ついてない
毎日王宮で顔合わせてるでしょう。本当に酔っ払いが

「細いなー名前は?」
「…王に覚えていただくほどの者じゃないです」
「よしよし初々しいな!」

名乗っても気付かない気がしてきた
自分のキャラじゃない可愛い子を演じて疲れる
ふう、と溜息を吐いた時、シャルルカンが話しかけてきた
間に座っているとはいえ他に女性がいっぱいいるのでちょっと距離がある

「王サマ綺麗な子乗せてますね〜」
「良いだろう!やらんぞー」

シャルルカンはぐでんぐでんに酔ってなさそうなのに
もしかして化粧でだいぶ顔が変わってるのだろうか
だったら好都合だ。マスルールのことでも聞き漁ろう

「王はよく3人でいらっしゃるんですか?」
「俺と向こうの赤毛無表情は来るけど、王サマはなかなか来ねぇんだなーコレが」
「君がいるなら毎日来るぞー」

いや、帰って仕事してなさい
という言葉はごくんと飲み込んでにこにこ笑顔で返した
それに気分を良くしたのかもっと酒を飲みだした

「あちらの方はいつもああしてお1人で?」
「マスルールか…お、今日は可愛い子がいるなぁ」
「あー、あの子最近ずっとアイツの傍に居るんですよね。何が楽しいんだか」

あ、ちょっとショック
ちらりと向こうに目線をやると女の子は頬を赤らめてる
アレは明らか惚れてるだろうて
…見に来るべきじゃなかったかなぁ

「ほら君も飲んで飲んで!」
「…そうですね。いただきます」

半ば自棄酒の気分で豪快に飲みにいった
こっちが部屋で寂しい思いしてる最中に、可愛い子と楽しそうに喋りやがって
今日ぐらいこうやって飲みまわっても文句言われる筋合いないもんね!

煽り煽られ、30分ほど酒を大量に飲んだ
あー…頭ぐるぐるしてきたかも。シンドバッドにいたっては隣にいる子にセクハラしてる
そういえば私も尻触られたような…まあいいか

「シン…すみません、俺帰ります」
「もう帰るのかよおおおぉぉ…もう少し居たって…」
「セレーナが危ないんで」

聞きなれた声がしたと思ったら体が宙に浮いた
見慣れた顔が間近にある
手を伸ばして頬に触れると此方を向いた

「…ます、るー、る?」
「はい」
「あれ?どして…?」

何かシャルルカンのざわついた声がする
けど、目の前に居る人物の行動の方が気になって、意識がそっちにいかない
シンドバッドにつられてお酒飲みすぎた。人の事言えない

「それじゃあ先に失礼します」

私の疑問には答えず、抱えたまま手を組んで礼をして店を出た
姫抱きされたまま夜風にあたる
上手く働かない頭で、もう一度尋ねた

「なんで、あれ…」
「セレーナの匂いがあったから居るってことは知ってました」
「あー…なるほどぉー」

ファナリスって鼻良かったな、とぼんやり思い出す
…あれ、ってことは隠れてたり膝乗ってたのもバレてた?
さあっと一気に酔いが醒めた
恐る恐るマスルールを見ると、いつもと変わらない表情

「う、浮気じゃないよ」
「俺も違います」
「…可愛い子と喋ってましたけどね」

我ながらなんと可愛くない発言
そこで素直に謝れば良い物を、どうして波風立てる言い方になるのやら
顔が見れなくて首に腕をまわして抱きついてみる

「嫉妬ですか…?」
「……そうです」

恥ずかしいから見えないようにしたのに、腕を引き離された
途中で降ろされて、支えられながら立つ
見上げたと同時にちゅっと軽いキスが落ちてきた

「なら明日も店に行きます」
「ちょ、…そんな優越感持たないでよ…」
「嫉妬されるの気分いいんで」
「じゃあ私も出勤する」

その言葉に一瞬目尻が動いた
また姫抱きされて歩き出す
横顔は少し不機嫌そうに見えた

「シンでもその格好見せるの嫌なんで、やめてください」
「独占欲?」
「…そうです」

素直にこれは嬉しい
もう一度首に抱きつくと耳たぶを甘噛みされた
くすぐったい、可愛い

「明日はセレーナの店に行きます」
「お待ちしてます、マスルール様」









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