朝からばたばた、ばたばた
廊下といい部屋といい
人の走る音が響き渡る

「…ああ、今日はどこかのお偉いさんが来るって言ってたっけ」

ベッドから起きて数分経って思い出す
とはいえ、食客の私にはあまり関係の無い話
少しだけ今日は気をつけて出歩くぐらい

髪を梳いていつも通り結わえる
服も寝巻きから与えられたものに
そういえばこの服も、ずっと着てるな
これともう1つしかないから当然といえば当然か

「すみませんセレーナ。起きてますか?」
「はい、何ですか?」

コンコン、というノックの音がしてジャーファルさんの声が聞こえた
着替え終えてから扉を開けると、疲れ切った顔が目の前に広がる
またシンドバッド王が何かしでかしたのだろうか

「マスルールを見ませんでしたか?昨夜あれほど言い聞かせたのに部屋に居なくてですね…」
「屋根の上では寝ていませんか?」
「そこも探しました。もし見かけたらすぐ大広間に来るよう言い聞かせてください」
「分かりました。お疲れ様です」

こんな時でも自由な彼が少し羨ましい
扉を閉めて、ベッドに戻る
上に乗って扉から見える面と反対側を覗き込む

「いくらなんでも、もう行った方が良いんじゃない?」
「…眠いんで」
「私より早く起きてたでしょう」

壁とベッドの隙間にすっぽりと挟まるマスルール
ちょっと、ベッドの位置が動いた気がするけど、まあいいか
布を抱きしめて起きるのを拒む彼から離れて、自分の衣装箱から彼の官服を取り出す

マスルールの部屋には衣装箱がないというのも1つの理由だけど
何よりこういった大切なことの前日は、マスルールが私の部屋にいることが殆どだから

「ほら起きて。服出したから」
「…」

間から出てくると無言で両腕を広げた
この子供はいくつになったら大人になるのかな
シャルルカンが見たら大笑いするような光景に、自分で笑ってしまう

白い衣服に袖を通して、上から共通の羽織をかけて腰布で止める
もう何回これを繰り返したことか
いつも通り着せて満足していると、ふと首元が目に付いた

「…マスルール、前も閉めなきゃ」
「閉まらないんでいいです」
「え…?やだ、本当に閉まらない」

苦しいのが嫌だからと思いきや、本当にボタンが止まらない
必死にぐいぐいしていると眉間に皺が寄った
…少しきつくしてしまったみたい。慌てて手を離す

「はあ…行ってきます」

よく返事で「はあ」と言うけど、今のは完全に溜息だ
行ってきますと言いつつなかなか進もうとしないマスルールに私も溜息を吐いた
ベッドに上がって立ち、目線を合わせると軽くキスをした

「お出掛けはまた今度ね」
「…行ってきます」

約束の延期を約束すると、今度はちゃんと歩き出した
ベッドに立ったまま手を振って見送る
扉を開けて、不意にマスルールが振り返った

「服、一緒に買いに行きます」

ぱたん、と扉がしまる
ぱふん、とベッドに座り込む
見てたんだろうか。でも声には出してないのに
自分の服を見て思わず笑みが零れる

私が早く起きてと願うのは、貴方に早く帰ってきてほしいから
気をつけて、いってらっしゃい。お仕事頑張ってね









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