夜明けのコンツェルト | ナノ
(こんな小さい家は家じゃないって言ったら一発殴ってやる)
不穏なことを考えながら、そんな内心はおくびにも出さずフライパンを構えた状態で応えた。
「この家の主人は、私ですけど」
すると、その応えに男が眉間に皺を寄せる。
「……お前がか?」
「はい、そうです」
「……Jokeはいい。とっととご主人様の名前吐きやがれ」
「え? いや……そんなこと言われても、見て分かりません……?」
何だ。何なんだこの男は。会話が妙に成り立たない。
「この家、私以外住んでいませんし……」
すると男は素っ頓狂な声を上げた。
「ハァ? じゃあ俺をここに連れ込んだのは、アンタだっていうのか?」
「え?」
何を言っているんだろう、この人は。連れ込んだ? ここへ、誰が?
「……私が? あなたを?」
「他に誰がいる」
「いやいやいやいやいやいや」
頭が混乱している。本当に、この男は何を言っているのだろう。連れ込んだというのか。この男を、私が? 当然のことながら名前に全く覚えはなかった。昨日は何事もなかった。いつもどおり大学で授業を受けて、友達とちょっとしゃべって、それから自分の家に戻って家事をして就寝。そして目覚めると、目の前の男がベランダで倒れていたのである。
というより、何故こんな話になっているのだろう。「侵入した」でなく「連れ込んだ」という話になっているのは、何故だ。
「あの、ちょっと待ってください」
「?」
「あなた……勝手にここに入ったんじゃないんですか?」
その言葉を言った瞬間、男の顔が面白いことになった。
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