夜明けのコンツェルト | ナノ



「てれび、というものが何なのか、大まかには掴めた」


しばらくテレビと格闘していた伊達さんは、やがて強い目をして私にこう報告してきた。


・テレビの中に人はいない。
・テレビには、「チャンネル」というものがあり、それぞれに色々映像が映る。
・テレビは電気で動く。


と、だいたい把握したようだ。テレビのなんたるかを知るには不十分だろうが、別に不都合はないだろう。
現代人の何割がテレビの原理を事細かに把握しているのか。
別に原理を知らなくても使えるし、使い方を理解すれば支障はない。つまりはそういうことだ。

テレビ以外にも、必要な説明はあった。車、お店、人々の服装、身分の差がないこと、そして必要最低限の法律と、警察の存在。ここら辺は非常に重要なことだったので、名前は強調して何遍も繰り返し説明した。

彼女は、自身が思いつく限りのことを思いつく限りの語彙で説明して、政宗はそれを真剣な表情で聞いていた。

世界は違うけれど、基盤になっているのは間違いなくこの国の戦国時代であり、四百年以上もの隔たりがある。

理解しているのかは分からないが、なるべく理解しようとしていることに名前は驚いた。彼なりに、どうにかしてこの世界に慣れようとしているのだ。

未来から来た、というのであればいざ知らず。過去の人間が未来のことを知るにはまず感覚の違いを明らかにする必要がある。

しかしその点、政宗は飲み込みが早かった。もともと素直で、頭がいいのだろう。英語を使えているのもその証拠だ。


「という訳で伊達さん。今からテストをしてもいいですか?」

「Test?」

「先ほどの話をどれくらい理解しているか、試させてもらいます」


すると、政宗は幾分か剣呑な表情になった。名前は、しまったと思ったがこれも必要なことだ、と自分に言い聞かせて、さらに付け加えた。


「話を聞いていても、実際にそれを活かせなければダメです。連れて行きません」

「ほう……俺を試そうってか。いいだろう、受けて立ってやるぜ!」


左目にめらめらと燃える炎が見えた気がした。気合は十分である。

名前は咳払いを一つし、こちらも真剣な表情で政宗と対峙した。彼を保護する立場であるので、政宗の言動ひとつで自分自身が困ることになる。真剣になるのも当然だ。


「問題は全部で五つ。いいですか?」

「Okだ」

「それでは第一問。お金についての問題です。現在使われているお金の単位を大きいものから全て答えて下さい」

「はん。そんなの楽勝だぜ。えー、いちまんえんに、ごせんえん。んで、せんえん……ごひゃくえん、ひゃくえん、ごじゅうえん、じゅうえん……。あ、あとごえんと、いちえん!」

「くっ……やりますね。それでは第二問。持ち物についての問題です。現在、この国で日本刀を持ち歩くとどうなりますか?」

「けーさつに捕まる。んで、取り上げられる」

「正解。頼みますよ、ほんと」

「分かってる。しかし、有事の時はしらねぇぞ」

「有事って……まあ、そんなことは殆どないですから心配なく。では、第三問……」


それから、交通ルールや身分、服装に関係する問題を出したが、それらに政宗は全て及第点の答えを出した。

名前は正直のところ、一問くらいの間違えはおまけするつもりであったのだが、まさか全問正解されるとは。


「ぐ……。全問正解するなんて……」

「Ha! なめてんじゃねぇぞ」


こんなもん楽勝だ!
ご満悦の政宗を尻目に、名前は重い溜め息をついた。

問題まで出したのだから、こんな結果になっては彼を連れて行かなければならない。


「大丈夫かな……」

「余裕だって言ってんだろ?」


ドヤ顔でお気に入りのソファに寝そべる政宗を見て、またもや溜め息が零れ落ちた。




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