夜明けのコンツェルト | ナノ
「こりゃ、すげぇな」
すべて見終わった後、政宗が呟いた。そして、視線だけ名前に寄越す。
「いったいどうなってんだ?」
「うーん……」
ゲームの中とはいえ、舞台となっているのは戦国時代だ。「テレビゲーム」といってそのまま理解してくれるとは思わない。しかし、説明するのも難しい。名前にとってあまりに当たり前のことすぎる。
どう説明しようか迷っていたところ、いつの間にか隣に来ていた政宗は、テレビをまじまじと見ていた。やがて恐る恐る指先を画面につけると、その固さに驚いたようだ。固さに弾かれたように指を離し、また画面に手を伸ばす。コンコン、という硬質な音がする。
「中には入れないのか……?」
「はい。入れませんし、出てくることもありません」
本来ならば。
少し考えてその一言を付け加えると、政宗はテレビから名前に視線を移した。
「どういうことだ」
テレビから目線を外した政宗が、鋭い目で名前を見据える。その表情はどこか硬い。
心臓の鼓動がばくばくと煩く鳴っている。
「これは、世に言う作り話だからです」
貴方には御伽草子と言ったほうが分かりやすいかもしれません。
政宗はその言葉に一瞬目を見開いて、何かを言おうと口を開いたが声は出てこなかった。
そのまま何も言わずに口を閉じ、名前の言葉を噛み締めるように瞼を閉じた。それからしばらく、彼は目を閉じて身動きをしなかった。
数分、無言の時間が続く。テレビからはテンポの速い曲だけが繰り返し繰り返し流れていた。名前も声をかけることをためらって、コントローラーを所在なさげに見下ろす。
そしてやがてゆっくりとまぶたを開いた政宗は、名前を見据えた。
「いくつか質問させてもらおう」
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