夜明けのコンツェルト | ナノ
「……戦国、乱世?」
またまた何言ってるんだこの人、と困惑した目で男を見ると、大きな手で後ろ髪をかきながら再び口を開いた。
「ここはあまりに、俺がいた場所と違いすぎる」
言葉が通じるこたぁ異国じゃねぇことは分かるがな、と名前を見ながら呟いた。
「じゃあ、貴方がいた場所って……」
「さっき言った場所だ」
戦国乱世。各国の猛者が天下を狙い、戦に生きたあの時代。まさか、と名前は目の前の男を見つめた。鋭い光を放つ隻眼と目が合った。
「俺も信じがたい。勘違いであって欲しいと思う。だが、」
そうなのだろう。男は小さな声で問い掛けた。
「ここは、未来なのか?」
戦国時代からすれば未来か。名前はぼんやりとする頭で考えた。そして彼女はようやく思い出したのだ。あの家紋。そして隻眼。もう片方の目は刀の鍔で隠されている。何故早く気が付かなかったのだろう。
(もしかして、伊達……政宗?)
しかしこの「伊達政宗」は。
(……違う)
この「伊達政宗」は、違う。史実の「伊達政宗」ではありえない。
名前はようやく思い出した。あの家紋や、あの六振りの日本刀に見覚えがあった理由が。
名前はちらり、と部屋に備え付けてあるテレビの下を見た。そこにはゲーム機が置かれている。その中に入っているディスク。
「戦国BASARA」というゲームの存在。
この男の風貌やその背に負っている家紋に見覚えがあるのはこのせいだったのだ。昨日、友人に借りてさわりを見ただけだが、ものすごいインパクトがあるゲームだった。
六振りもの日本刀を操る「伊達政宗」はここにいたのだ。
「……違います」
「なんだと……?」
「ここは未来ではありません」
そういった瞬間、男の顔がどこか、悲しげにゆがんだ。
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