夜明けのコンツェルト | ナノ


 

「とりあえず、その甲冑をどうにかしないと……」


名前は政宗が身に着けている甲冑をまじまじと見た。鮮やかなブルーを基調にした甲冑で、金属部分には黒鉄を使い、ところどころに黄色で稲妻のようなラインが入れられている。

(これ、売ったらいくらになるんだろう……)

そう名前が思うほど、見事な甲冑だった。
しかし、その甲冑には無数の傷が刻まれていた。その傷が、本当に彼が戦国時代に生きている武人だということを示していた。

たとえ、虚構の世界の中であったとしても。


「伊達さん……これ、脱いでほしいんですけど」


だがどんな一級品でも、これを着て現代の社会の中に飛び込めば以下略。
名前は言いづらそうにそう伝えた。政宗の方はというと、自身の姿を見下ろして少し不満そうにふん、と鼻を鳴らす。


「まあ、今は戦はないからな……」


そう言って、彼はえっちらおっちら具足を解き始めた。どんどん外されていく具足をぼんやりとみつめていたが、名前ははっと我に返っていそいそと箪笥の中を探り始めた。

甲冑を脱がしたのはいいが、着替えがなくては始まらない。
確かサイズの合わないジャージとシャツがあったはずだ……と、ごそごそと箪笥をいじっていると、不意に背後に気配を感じた。


「何を探しているんだ」

「へ?」


反射的に後ろを振り返ってしまい、そして彼女は後悔をした。


「う、うわああああああああ」

「!?」


後ろには、ふんどし一丁で仁王立ちをしている政宗が立っていて、こちらを見下ろしていたのだった。
程よく筋肉の付き、均整の取れた白い肉体がまぶしい。名前は自分が硬直するのが分かった。

しかし何よりも彼女の体を硬直させたその要因は、裸だけではない。
唯一身につけているものである、所謂「ふんどし」が最大の要因であった。

しかも何故か甲冑同様、青い。

政宗は、名前が叫んだ意味が分からず警戒していたが、彼女の頬が真っ赤なのと、自分の格好を見て、ああ、と合点がいった。


「見慣れてねぇか」

「な、ななな、何を言っとるんですか! 見慣れないでしょう普通!」


そう叫びながら言って、彼女は箪笥に向き直った。早く着せなければ見続けることになってしまう。
焦りすぎて自分の衣服をしわくちゃにしてしまいながらも、彼女は目当てのものを取り出した。


「あった!」

「?」

「伊達さん、これ! 着てください! 早く!」


極力政宗の方を見ないように、首だけを違う方向に向けるという妙な体勢で、名前は彼に衣服を渡した。

受け取った政宗はそれをしげしげと見ながら触ってみたり色々と調べていたが、やがてぽつりと漏らした。


「着方がわかんねぇ……」


名前はその言葉を聞いて愕然とした。しかしよく考えてみると、当然のことであろう。それもそのはず、戦国時代は着物が主流だし、袴もあったとはいえまた別の代物だ。

(まじかよぉおおおお)

無言で自分のことを見つめている政宗の視線を背中に痛いほど感じる。


「……そっち向きますよ」


意を決した名前は、政宗の下半身のほうに目をやらないように気をつけて、後ろを振り向いた。




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