初雪を見た。
白い天からゆっくりと降る雪は小さくて、息を吹き掛けると鼻先で水に還り、冷えて赤くなった鼻を少し濡らした。
隣りの彼女がマフラーで口許を埋もれさせたまま、声を出す事すら体温を奪うとばかりに小さく呟く。
「寒い」
「さっむいなー」
吐いた息が白く濁り空中に溶けた。
この水蒸気が空に昇り雲になって、また雪を降らせる。終わる事ない無限ループ。一生春は来ないかもしれないと錯覚してしまうほどに空気は冷えていて、たまらなくなって身を震わせた。
いつもの自分には似つかわしくない、少しセンチメンタルな気分に浸っていると急に髪を引っ張られた。
「お?」
「あったかそう……」
羨ましげに俺の髪を手袋した手でいじるものだから、普段から跳ねている毛先が四方八方に半円を描いた。
静電気は冬の風物詩というにはあまりに短所が多すぎる。
「触るなら手袋外してよー」
「やだ、寒い」
「枝毛だらけになるじゃん」
量の多い髪束を彼女から遠ざける。するとまるで玩具を取られた赤ん坊のように泣きそうな怒り顔になってしまった。
「いじわる」
「よく言うよ。夏はあんなにうっとうしがってたくせに」
「そうだっけ」
夏頃自分が痛烈な一言を発した事をしれっと嘯いた彼女に呆れた溜め息を漏らしながらも、俺は少し笑ってニット帽を被った頭を抱き寄せた。
メビウスの輪
寒がりで暑がりの彼女と迎える春はどんなものだろうか。その頃また俺の髪は少し伸びていて、少し暑くなったらきっとまた暑苦しいと言われて、秋を終える頃にはこうやって温かさを求められる。
一年後の今、こうやって空を見上げてながらささやかな互いの体温を感じていられますよう。
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繰り返される幸福。
2008/11/29