短編(他軍/過去) | ナノ


昼休み。食料を確保するべく人工的な涼しさから外に出た。途端肌に纏わりつくじめったい暑さで汗が噴出す。

全く、嫌になる暑さだ。憎いものを見るような目で太陽を仰ぐ。網膜に焼き付く明るさは日に日に勢いを増していて、地球が干上がってしまうのではないかと無用な心配をさせられる。

いつもあるはずの左手の荷物が今日はない。手持ちぶさたになって髪をいじる。ジリジリとコンクリートが焼けるのを見ながら建物の日陰に避難して肌を休ませた。

生憎日焼け止めはしない主義だ。なのでいやに肌が熱い。夏は好きだが、この日光をどうにかしてほしいものだ、と私は考える。このままでは夏が終わる頃には高校野球部のように奇妙なツートンカラーを晒すことになるだろう。

「何をしている」

不意にかけられた声に顔をあげる。
日向から聞いたことのある声がしたと思ったら、局地的に日陰を作っている男がいた。


「あ。いいなぁ、日傘」

「貴様のことだ、どうせ忘れたのだろう」


切れ長の目を糸のように細くして男は笑った。嘲りとも微笑みともつかない笑顔。この曖昧な笑顔が、私は好きだった。


「だってこんなに暑くなるとは思ってなくてさー」

「天気予報を見たか、最高気温32度だぞ」

「うえ、死ぬ……」

「馬鹿め、日輪の恩恵だ。ありがたく受け取るがいい」


こんな真夏日に日輪の恩恵を直で受けていたら病院に運ばれること間違いなしだ。日傘の中から太陽に向かって頬を緩める男が少し憎たらしい。


「じゃあさ、日傘ちょーだいよ」


いらないでしょ、と言えば細い柳眉が逆立った。


「……何故貴様にやらねばならぬ」

「焼けちゃうじゃん」

「焼き豚か」

「泣くぞ」


あまりの言われようにむ、と唇をつきだすと鼻を鳴らす音が聞こえた。


「来い」


低い声で短く言い放つと、くるりと踵を返して向こう側へ歩き始めた。
聞き間違いだろうか。今来いと言われたような気がする。暑さで頭がやられたのかと思って額に手をやっていると、ついてこない私を見て男は吐き捨てるように呟いた。


「……来ないのか」


緩く吹いた風が彼の髪をやわくさらった。色素の薄い髪は、太陽光にきらきらと反射して、男のくせに綺麗な髪だなぁと勝手に思った。


「入れてやると言っているのだ」


そんな話は初耳だが、どうやらあの日傘の下に入れてくれるらしい。どういう風の吹き回しだろう。
でも好都合なことには変わりない。早速お邪魔することにした。


「食堂に連れてって下さい」

「アイスを奢れ」

「えー」

「パピコでよい」

「ん、分かった」


半分こね。そう笑うとまた曖昧に笑い返す男の肩に陽光。
少し小さい傘だったけれど、私の肩がはみ出すことはなかった。


あいあい傘の法則








2009-05-24





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