その子供は母親を呼び続ける。おかあさん。おかあさん。幾度呼んでも揺さぶっても母親だった骸は返事をしなかった。当たり前だ、骸は口を聞かないから。 おかあさん。段々耳につく鼻声に変わってきた。苛々と頭を振りかぶり肌に張り付く髪を荒々しく振り払う。血を被るといつもこれだ、後先考えず行動する癖を、少し改めねばならない。 おかあさん。掠れた声が少し気になった。気紛れに目を遣るともう子供は泣いていなかった。洟をすすりながら、母親の頬をぺちぺちと叩いてはその冷たさと固さに驚いていた。その表情は純粋そのもので。だが同時に、目が開くことはもうないのだと諦観しているのも分かった。この年頃の子供なら狂いそうな程に泣き喚いてもおかしくないというのに。 ああ、君は死を受容したのか。思わずうっすらと微笑んだ。 つい先程これ以上勝手はしまいと決意したばかりだというのに、足は子供に向かっていた。まあ良いだろう、これくらい。罪悪感はなかった。血に塗れた姿を見ても何の感情も浮かんでいない濡れた目と視線が絡む。沸き起こる愉悦で唇の端が上がった。 八月の空の下 君と二人。 晴れていたのは皮肉かそれとも、 |