「ハァ? じいさんがぎっくり腰?」
私が呆れたという風にそう言うと、それを知らせに来た忍――風魔小太郎はこくんと小さく頷いた。
彼が持って来た手紙――同じ城にいるのにおかしな話だが――には、上司かつ祖父である北条氏政の達筆すぎる字でこう書いてあった。
『腰がギックリきたので後は任せた』
思いも寄らない事態に、私は頭を抱えたい気分になった。
「な、なんでこの忙しい時期に……!」
現在、北条は先の戦で辛くも勝利し、その後始末に追われている。
戦時中やらなくてはならなかった内政の政務を今こなしているのだが、現当主である氏政がぎっくり腰で動けないとは。
「どうしよう……」
北条家の当主であり北条領を取りまとめている彼が動けない今、何も決められない。最終決定が彼にしか下せないのだ。
手も足も出ない状況に、やりかけの書類を放り出して畳に転がった。
「もうダメだー」
唸りながら左右に忙しなくゴロゴロと転がっていると、また忍は懐から一通の手紙を取り出した。
何の理由があるのかは私は知らないが、彼は一言もしゃべろうとしないので言付けは出来ない。よってこのように手紙を運んでやりとりするのだ。
天下の風魔小太郎を飛脚代わりにするなんて、日の本広しと言えど此処北条くらいだろう。
「またじいさんから?」
受け取りながら尋ねると小太郎はこくんと頷いた。その動作を可愛いと思ったことは彼には秘密である。
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