私にはこの世で許せないものが三つある。
埃の被った蜘蛛の巣と夜中のバイクのエンジン音、そしてトカゲ顔の男だ。
「というわけで伊達とかいう男。
死んでください」
「いや意味がわかんねぇ」
男に芯を出したシャーペンを突き出す。男は即座に身を引いて顔を酷く引きつらせた。
女は刺さらなかったことに鋭く舌打ちをした。
そしてシャーペンをしまうと筆箱に苛ついたように投げ入れる。
「私は爬虫類、というか貴方なんて嫌いです」
「これで嫌われてなかったら奇跡だ!」
「軽々しく奇跡なんて口にしないでください」
そっぽを向くように女は顔を逸した。
男は、どうしたものか、と頭をかく。
「……なぁ。いつになったら許してくれんだ?」
「何の話でしょう」
「とぼけんな。……俺の浮気の話だ」
言いづらそうにしながら男はそう言うと顔の前で手を合わせた。
拝まれた女は迷惑そうに一瞥する。
「誤解といえど紛らわしい真似した俺が悪かった! なぁ、だから許してくれよmyhoney!」
「私は貴方の蜂蜜じゃありません」
「そういう冗談はよしてくれ」
「あら。冗談とでも?」
「……頼むぜhoney」
「頼むも何も、決定事項ですから」
ひらりと椅子から床に足を付けて歩き出した彼女はふと、絶望した目でこちらを見つめる男に言い放った。
「私にはこの世で許せないものが3つあります」
そうして女は艶然と微笑んだ。
「冷たいシチューと路上駐車、そしてしつこい男です」
呆然となった男を放って、彼女は部屋から出ていった。
海みたいな君に溺れる僕(女の心は海より深いぜ!)慌てて男が部屋を飛び出したのは、それから3分後のこと。
2008/07/28