短編(伊達/過去) | ナノ


「Hey you!」
「あん?」
「Trick or Treat。お菓子くれよ」

10月31日。平日、しかも憂鬱の代名詞・月曜日である今日は、当たり前に学校がある。
相変わらず単調な授業を3つ受けて、ようやくやってきた昼休みに自分の教室でかすがとお弁当を突いていたのだが、そんなところに年中常春男がやってきた。

年中常春男。それは伊達政宗とかいう男子学生である。クラスが違うというのに日常的に私のクラスにやってきてはこうやって無益な会話をしようとする奇特な男子学生は、いつもしている白の眼帯ではなく、今日はドクロマークがプリントされているいかつい黒革の眼帯をしていた。妙に似合っていたがドヤ顔で見せ付けるものだからうっかり眼帯を思い切り掴んでから離してやるとパチン、と小気味良い音がしてそのまま伊達は床に倒れた。痛かったらしいが今はそれよりもお昼ご飯である。気にしないことにしてもくもくと食べていたのだが、すぐに起き上がってきた伊達に再び阻まれた。

「英語力皆無のhoneyに解説してやる。Trick or Treatってのはハロウィンで使われる言葉でな、日本語訳すると『いたずらか、おもてなしするかどっちが良い?』っつー意味だ。つまり俺は今アンタにおもてなしされたい」
「ご丁寧に解説どうもありがとう」
「というわけでお菓子くれ」
「持ってない」
「じゃあいたずらさせろ」
「いや」
「パンツ見せてくれるだけでいいから」

せっかく回復した伊達であるが、私は持っていた箸で奴の健在な方の瞼を刺すと予想以上に刺さったらしく再び床に倒れ伏して苦しみに悶えている。何だこいつは。持ち歩いている除菌ウエットティッシュで箸を拭うと食事を再開する。

回復力に定評がある伊達はすぐさま立ち上がると、バン!とお弁当を置いていた机に手をついた。机の向かい側に座っていたかすがも、それまで無視を決め込んでいたのだが少しだけむっと顔をしかめたのが見えた。

「お菓子持ってない奴はこれを言われるといたずらされるっていうのが常識なんだぞ!」
「残念だったね、ここは日本ですこの洋風かぶれ」
「どう●つの森でも、キャンディ持ってなかったら服をボロボロにされるってのに!」
「知るかよ」

残りの昼休みはあと15分しかないというのに、伊達に構っているせいでお弁当が半分も進んでいない。向かいに座るかすがはもう食べ終わったようで「飲み物買って来る」といささかイラついた表情で席を立った。

そしてやはりというか何というか、空いた席には伊達が嬉しそうな表情で収まった。少し赤い目を爛々と輝かせてこちらの動向を探っている。非常に食べづらい。

「……伊達」
「お? いたずらさせてくれる気になったのか!?」
「興奮するな気持ち悪い」

思わず心の中の声を口に出すと精神的にダメージを負ったのか伊達は机に倒れ伏した。先程からリアクションが忙しい奴だ。

私はお箸で卵焼きを一つつまむと、未だ机に倒れ伏している伊達の口に突っ込んだ。

「!?」

突然口にやってきた卵焼きに驚いた伊達であったが、吐き出さずにそのまま咀嚼し飲み込んだ。

「あめぇ……」
「今日は甘い卵焼きにしたの」

だから、と顔を上げた伊達に笑ってみせる。

「これで、お菓子代わりっていうことで」


ハッピーハロウィーン!




(うわ。伊達の顔やばいきもい)
(俺……幸せ……)


2011-10-31



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