短編(伊達/過去) | ナノ



醜いだらう。もう随分昔のことだというのに相変わらず、己れのこの眼帯の下は熟れすぎた果実のような色をしてゐる。そういえば何処へ消えたのだらうか、あの醜く膨らんだ目玉は。その行方を己れは未だ知らされておらぬ。鏡が嫌いなのも昔から一寸とも変わらず己れから目を逸らされるのを酷く嫌う性癖も未だ染み付いてゐる。触れるな、こんなもの己れは見たくなど、だがお前は目を逸らすな。幾度彼女を困らせたのだらうか。それでもあの女は己れの傍らで好く笑つたものだ。
嗚呼あの女、一体何処へ行つてしまつたのだ。日の本を統べてふと後ろを振り返つてみれば何時の間にか消えてゐて、女を取り零したことを酷く後悔した。後はもう迎えを待つだけの身というのに今もまだ目玉もあの女の行方も分からぬ。

ゆるやかに崩壊

























2008/10/21