艶やかに笑えば金子が舞う。ついと目をやればかんざしがまたひとつ増える。檻のように囲われた格子窓からの好奇の視にはとうに慣れた。誰哉行灯に照らされながら外八文字で練り歩くのが、唯一許された下界。さあてここは常世の苦海か稀代の救世か。 色に溺れた男どもは我よ我よと繊手を引きたがる。客も選べる身分だからと、奥ばかりに籠っていたらとんだ厄介な相手に引き合わされたもんだ。艶然と笑えば嘲笑が返される。先程からずぅっとこの調子で、客ということを忘れちまって叩き出してしまおうかと考えたほどた。 「あんた、気に食わない顔だな」 「ほほ。お口が悪うござんますな」 「元からだ」 「あらまぁ手加減してくだしゃんせ」 典雅な口調でやわくやわく話し掛ける。本当は心底うんざりしていた。気に食わないならさっさと帰ってしまえ。ああ、もしかしたら分かって言っているのかも知れぬ、この男。早く床にでも連れ込んでしまえばよいものを長々と未だ酒を呷っている。酒の肴に舞でもさせようという心算ならお門違いとぴしりと言ってやらねばならぬ。芸妓ではないのだ。 「、おい」 考え事から我に返り、能面のような無表情から花が咲くような笑顔をしてみせた。 「何でおざんすか」 「お前、怒ったことはないのか」 唐突にそんなことを聞くものだから、いらえに窮して何も言えなかった。 男は片方しかない目をすがめて笑った。 「俺ァ、あんたの笑顔以外が見たいんだ」 ああ、その笑顔はきっと、作り物なんかじゃあないんだろうね。 2009-04-01 |