短編(武田/過去) | ナノ

安らげる場所が欲しかった。泣ける場所が欲しかった。甘えられる場所が欲しかった。

そこに愛はなかった。

「酷い、女でごめん」
「気にすることはないのでござる」
「けど、傷付いたろう? 貴方は優しい人から」
「優しいのはお主でござる」
「そう見えるだけだよ」

いつだってそうだ、私は貴方にこの醜い本性が知られて突き放されたくなくて自分を偽ってきた。私は出来た人間なんかじゃない。他人を恨み憎み嫉む。そう、貴方が思うような綺麗な人間なんかじゃ、ないんだ


「もう疲れたんだ。自分を騙して貴方を騙す事に」

安らげる場所が欲しかった。
泣ける場所が欲しかった。
甘えられる場所が欲しかった。
どれも全て貴方は揃えてくれた。
けれど。

「逃げ出す私を許してください」

きっと貴方ならもっと素敵な、そう身も心も綺麗で純粋な人を見つけられる。保証しよう。
背を向けた私はしかし囚われて、腕の中。

「お主は何か勘違いをしている」
「何を、」
「某はそんなに優しくなどない。某も酷い男なのだ」

ぎゅうと抱き締められて胸が苦しい。

「自分を貶めてはいけない」
「それを言うならお主の方だ。優しい。お主は優しい人だ」
「貴方を利用したのに?」
「そんなもの、利用などと言わぬ。某も求めていたのだからお互い様。丁度良かった相手なのだ」

やはり、貴方は優し過ぎる。

「私は貴方を愛していない」
「愛なんて後付けで良い」

にべもなく言い返す彼に視界が少し滲んだ。


ひからびた愛

(今この胸に沸き起こる感情がもし愛なら)
(愛ならば、よかったのに)






2008/01/13




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