雪合戦とは熾烈な戦いである。始めた頃は楽しげな喚声を出したりして楽しんでいたのが、時間の経過と共にお互い勝負という概念が生まれて来る。
雪玉という殺傷能力が低く、冬ならば何処からでも製造可能なものが獲物だからこその長期戦。勝負の分かれ目は疲労による脱落のみという過酷な戦、それが雪合戦である。
「うおおおりゃああああ」
冬将軍の襲来により雪に埋もれた武田軍の錬兵場に、程よく離れた2つの集団がいた。
ひとつには我らが御大将、真田幸村と部下の勇士たちの姿が見える。
幸村は防御用のかまくらに隠れもせずに雪玉を固く握り締め、咆哮しながら肉眼で残像が見える程腕を振って投げ続けている。
「いーねいーね、戦の華だねェ!」
その雪玉を躱しつつ的確に相手へ投げるのは、雪国育ちで自称雪合戦の手練、奥州の竜こと伊達政宗。何故彼が此処にいるのか。それは彼の傍らで眉をしかめながらもせっせと雪玉作りに精を出している竜の右目にでも聞いていただきたい。
そして傍観者がこの私と、隣りで幸村の命によって雪玉をこしらえている、真田十勇士の長である猿飛佐助。
与えられる任務はもっぱら幸村の雑用という噂の可哀相なお忍び君である。
彼は数十個の雪玉を作り終えるとその手を休め、濃い疲労を滲ませた溜め息を吐きその心中を誰ともなしに述懐した。
「俺様、何してんだろ……」
「雪玉作り」
「や、そういうことじゃなくて。何というか、忍の本懐みたいな任務に就かないで何が悲しくて雪玉作ってんだろ、みたいな」
「それを上司に言ったら?」
「聞くと思う?」
「全然」
「だよねー」
悲しそうに瞼を伏せるお忍び君が少し可哀相になったので、不肖私はここで、彼の悩みを解決するような策をひとつ享受することに決めた。
何、私もこの状況に少し飽きてきた所だ。
「佐助、君に良い事を教えてやろう」
「何?」
「雪玉に石を埋め込んで両軍の雪玉に紛れ込ませろ。すぐに終わるぞ」
「あんたは鬼か」
おぞましいものを見る様な目付きで佐助はこちらを睨んだが、それをなだめすかして言い含める。
「まぁよく考えろ。……相打ちほど、事が綺麗サッパリ解決する方法はない」
耳元で囁きかけ、にやり、とほほ笑みかけるとお忍び君は目から鱗が落ちた様な表情をした後、無言で石を集め始めた。
私はこの後、彼が被るであろう主とその好敵手と部下からの世にも恐ろしい報復を想像して口の端を上げ、その場から立ち去る事に決めた。
三十六計逃げるに如かず昔の人は良い事を言ったものだ。
憐れなお忍び君は数時間後雪だるまにされていましたとさ。