短編(武田/過去) | ナノ



守られる事に慣れていなくて。
どうしたらいいのか分からなくて。
思わず泣いてしまったのだけれど。


「……どうしてお前が、怪我をする」

「どうしてって、守りたかったからなんだけど」

「頼んでないそんなこと」

「だから、守りたかっただけなんだって」

「勝手なことするな忍のくせに目立ちやがって」

「……返す言葉もございません」

「守るなら私よりも幸村やお館様を守れ」

「いや、無理」

「お前の主は幸村だろう! どうして私のために怪我をする必要がある」


ほろほろと流れていく涙を、傷だらけの腕を伸ばした彼の長い指で拭われた。


「だって、君見てると危なっかしくて、つい」

「つい、でそんな大怪我が負えるか!」

「アハハ」

「笑い事じゃない! あと少し遅かったら、」


想像して血の気が引いた。手足の先から温度が失われていく。

血の海。光をなくした瞳。人から『物』へと変わっていく体。


「……私は、一人で大丈夫だ。今までもそうだっただろう。だから、今後こんな無茶は、」

「嫌」

「佐助」

「……俺様のこと心配するなら、戦わないで」


小さな声に少し胸が痛い。
でもそれは、


「無理だ」

「何で」

「だって、お前もやめろと言われたらやめられるか?」

「それ、は」

「それと同じだ。修羅の道は抜け出せないものだ」

一度入れば命果てるまで戦う。
それが業。数え切れない人を殺めた私の罪業。


「……だったら俺様もやめないから」

「話を聞いていたか?」

「君を守るのも、俺の業なんだよ、きっと」

「そんなの聞いたこともない」

「それか、運命」

「……きな臭い運命だ」


笑えば、笑い返してくれる。
ああそういえばこいつは生きているんだ。


「お前は馬鹿だ」

「知ってる」

「阿呆だ」

「うん」

「どうしようもなく馬鹿で救いようのない阿呆でおまけに腹黒だ。とんでもない男だなお前」

「……うわ。何か俺様泣きそう」

「泣くな。引く」

「視界が滲んできちゃった」

「我慢だ我慢。心頭を滅却しろ」

「人事だね」

「ああ何せ他人だしな」


がっくりとうなだれた佐助を見て忍び笑った。



道連れは君がいい


(暗い道も君となら怖くはないさ)






2008/01/15




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