短編(その他/過去) | ナノ

この人とずっと一緒にいれば、私はもしかすると、幸せになれるのかもしれない。

そう思わせるように、温かいまどろみが腕を伝って私に浸透する。段々二人とも同じ温度になってきて、まるで、体が溶けて一緒になってしまったような感覚がした。

温かいベッドの中でもぞりもぞりと移動して、エースの顔の近くまでやってくる。エースの胸に顔を寄せるのも好きだが、やはり一番は顔を見て話をすることなのだ。


「ねー、エース」
「ん? なぁに」
「幸せって、何だと思う」
「突然どうしたんだよ」


私の問いに半分寝ぼけているエースは笑った。そばかすの散った張りのある頬が笑みの形を作る。彼は自分のそばかすを欠点とよく言うが、そんなことはない。私にかかればどんなものもすぐに魅力に変わってしまう。そばかすも、くせのある傷んだ黒い髪も、眠そうな瞼も、少し汗の香りが混じる匂いも全部全部。不思議とそれらは心地よくて、私はすっかりそれらがないと満足に笑えなくなってしまっている。


「ふと、思っちゃって」
「うーん。そうだなぁ」


私の突然の思いつきに、彼は笑みを絶やさぬまま考えるしぐさをする。
そうして返ってきた答えは、やはり彼らしいものだった。


「みんな一緒にいること」


そうやって少し恥ずかしそうに笑うエースが何よりも素晴らしく見えた。


「あは、おそろい」
「え、そうなの?」
「私だって、みんなが大好きよ。父さんとか、バナナとか」
「バナナって、マルコだろ。ひっでぇ」
「内緒よ。ばれたら怒られちゃう」
「あぁ、確かに。追い掛け回されるぞ」


まるでいたずらをしている子どもたちのように、顔を合わせてこっそりと笑いあう。実のところ、彼は自身のヘアースタイルをからかわれることを、そこまで気にしてはいなかったりするのだが。

ひとしきり笑って、ごろんと体勢を変えたエースは、ふと、天井を仰ぎながら呟いた。


「幸せはきっと人の形をしているに違いない」
「そうかもねぇ」
「つまり、一人だと幸せになれないわけだ」


そういって、エースは体勢を変えて、私の背中に腕を回した。互いの吐息が顔にかかる距離。


「あのさ」
「なぁに」
「さっき、みんなっていったけどさ」
「うん」
「俺、お前と一緒にいる時、特に幸せかも」


幸せの足音がする

(それは誰よりも近い距離から聞こえる)





2011:03:08




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