短編(その他/過去) | ナノ
つい最近判明したことだが、私はどうやら気が短い性質のようである。自分でも薄々気付いていたのだが、最近になってより明らかになってきた。
何を隠そう、この目の前で私のベッドに寝転んでいる男のせいで。

「遅かったな」
「もうマジ死ねよ」
「え? 開口一番それ?」
「もうマジ死ねよ」
「二言目もそれかよ!」

赤い制服に暗い金色の髪。さながら夜の街の住人のような格好をしたその男の名前は確か垣根うんたらとか言って、この学園都市でもかなり上位に食い込んでいる能力者であるそうだが、私は残念ながら順位や上位の人間に興味がない。

そんの垣根さんは先日、厄介な集団に絡まれていた私を「見ててむしゃくしゃしたから」という簡潔な理由で救出し、挙句その集団を物理的に壊滅状態へと追い込んだ、いわば恩人である。
助けられた身として、お礼を一言を述べてその日はそれで終了したのだが、それから今日に至るまで、垣根さんはずっと私のことを付け回している。

最初のころは「またあんな連中に絡まれないように見張っててくれてるのかも……」とうっかり心をときめかせたのだが、だんだんそんな大義名分では隠し切れないほど、彼の行為は変容していった。その証拠に彼は今靴を履きながら私のベッドにいる。玄関を使った形跡が見当たらないのでおそらく窓から侵入してきたのだろう。不法侵入罪で現行犯逮捕レベルである。警備員に電話してやりたい。

「垣根さんはここを海外か何かと勘違いしていらっしゃるんですか。人のベッドに土足で上がるなこの野郎」
「勘違いなんざしてねぇよ。ただ、このベッドはお前のだけでなく俺らの愛の巣という名の……おっと」

最後まで言い終わらないうちに私の、近頃めっきり短くなってしまった我慢ゲージが満タンになったので発散すべく肩にかけていたかばんを男めがけて投擲した。
それまで寝転んでいたというのに、男は俊敏にかばんを避けると、床に落ちてひしゃげたスクールバックを拾い上げた。

「おいおい、物は大切に扱えよ?」
「私のものです、放っておいてください」
「年長者の言うことは聞いておくもんだ」
「そんなこと言いながらかばんの中身を漁るな年長者!」

金髪ストーキング野郎の魔の手からかばんを取り戻す。

私はなんだか疲れてしまって大きく息を吐いた。そして意を決してUターンして、玄関へと舞い戻る。せっかく家に帰ってきたのにとんだ無駄足である。

その背に、垣根さんの驚いた声がかけられる。

「え、何処行くの」
「貴方がいるので外で暇つぶしてきます。夜には出て行ってくださいね」
「ちょ、ちょっと待てよ!」

ローファーを履いてると寝転んでいた男は立ち上がり、慌てて玄関までやってきた。いい加減土足であることを理解してほしい。

「お前がいないならここにいる意味ないじゃん」
「なら出て行ってくださいよ。貴方が出て行ったら私は家に居ます」
「なんで!? お前そんなに俺のこと嫌い!?」
「嫌いって言うか……気持ち悪いっていうか……」
「え」
「いや、何傷ついたみたいな顔してるんですか。家に不法侵入してる時点で警備員呼ばれてもおかしくないですからね」

むしろ通報しない私に感謝してほしいくらいです、と小さく呟くと、垣根さんはその場にしゃがみこんでしまった。

「もう俺立ち直れない……」
「それは結構ですが私のスカートのすそを掴んでしゃがみこまないでください」
「ううう」

三角座りをして玄関のマットの上に座り込んだ垣根さんはしっかりその手に私のスカートの端っこを握りこんでしまっている。
今は顔を膝の間にうずめてしまっているので大丈夫だが、顔を上げられたらスカートの中身が見られてしまう。仕方なしに私もその場にしゃがみこんだ。

「もう、垣根さん落ち込まないでください。私のせいみたいじゃないですか」
「名前……嫌いにならないでくれ」
「嫌いって言ってないでしょう」
「気持ち悪いって言ったから……」
「いや、それは仕方ないじゃないですか」

さすがに不法侵入は許しがたい行為ですよ、と未だ俯いたままの垣根さんの髪にそっと触れると、弾かれたように顔を上げた。何だかちょっと頬が赤い。

「じゃ、じゃあ!」
「え?」
「玄関から入ったら、入れてくれるか?」

請うように私をじっと見つめる垣根さんの目は真剣そのものだ。先程の私の発言で少し潤んでいるが。
頬はさっきよりも赤くなって、鈍い金髪の髪の隙間から見える耳はもっと赤い。

「……ちゃんと、ピンポン鳴らしてくださいよ?」

そしたら考えてあげます。
そう言うか言い終わらないかのあたりで、彼の腕が伸びてきた。
あ、と思って避けようとしたが、気が付くと、垣根さんの膝の間に引き込まれていた。服を伝って温もりがじんわりと伝わってくる。

「名前……大好き」
「調子に乗るな!」
「あいだ!」

気を許すとすぐこれだ。私は垣根さんの鼻柱を四十五度くらい曲げてやってひるんだ隙にその腕から逃れた。玄関の床で鼻を押さえながらごろごろのた打ち回る彼を見て、少しだけ気が晴れた。いつもならここから、脳天にチョップをしたり脛を蹴ったりするのだが、先程の顔を赤くした垣根さんはいつもの三倍可愛かったので、それに免じて許してやろう。


君の心臓まで届いた?



2011-11-11 わりと危なかったけどね




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