短編(その他/過去) | ナノ


汚い部屋だ。ドアを開けた瞬間、眉間に皺がよるのが分かった。俺達みたいなやつらは普通、いつ死んでもいいように部屋は整えておくのだが。床一面に脱ぎ散らかした服がまるで彼女を守る砦のよう。かの姫君はそこだけが綺麗なベッドの上でおだやかに寝息を立てている、俺が来たことにも気付かないで。

「おーい」

「……」

「起きろー」

「……、ん」

規則正しい寝息の合間に漏らす喘いでいるような息が返事の代わりに寄越される。声だけでは起きない性質らしい。俺は溜め息を吐いた、側まで行って起こすしかないみたいだ。

散らばる服を出来るだけ踏まないように彼女に向かって歩き出す。団服、パジャマ、私服らしいカーディガンやブラウス、スカート、ズボン。みんな黒か白か、もしくは褐色。若い女がこんなんで良いもんかねぇと余計なお世話を呟いた。
その直後、色味のないカーペットに所々垣間見えるカラフルで面積の小さい布を見つけて目をそらす。こちとら青春真っ盛りの健康優良児だというのに。刺激の強いブツを見ないようにそっと他の服で上から覆い隠した。

「ったく、とんだ罠を仕掛けてくれる」

ようやくベッドに辿り着いて安堵したのも束の間。白いシーツの上にパジャマ代わりのワンピースを着た姫君は寝相が悪かった。(ああ、なんて格好を!)
またもや見て見ぬ振りをしながら、側に丸めておいてあったタオルケットを下半身にかけてやる。これでもう一安心だ。はあ、と疲れと安堵によって口から溜め息が吐き出される。起こすだけのことにこんなに時間がかかるなんて。

白いシーツの上に広がる黒い髪を巻込んでしまわぬよう、ベッドに腰掛けた。ぎしりと音を立ててスプリングが揺れる。

「よくお休みですね、お姫様」

髪を指で掬う。少し痛んだ髪が何となく彼女らしく、愛しく思った。

そうしてひとつ思い付いたいたずらに胸が躍った。ちょうどよく空いている1人分のスペースに体を入り込ませる。起きた時彼女はなんと言うだろう。想像してみるととても楽しくて、未だ起きやしない彼女を抱き寄せて眠りについた。


ミイラ取りがミイラ

(……帰ってこない)









2009:06:18





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