短編(その他/過去) | ナノ


この気怠く甘い空気が好きだ。ティキ・ミックは吸い慣れた煙草からまた煙を吸った。前まではこの甘い味がとてつもなく嫌いだったのだけれど、いつの間にか気がついたら手を出していた。

(まるで情事の後のようだな)

そう思って密かに笑うと、ことん、と目の前のローテーブルに硝子製の灰皿が置かれた。それを持って来た女は何も言わずに彼の隣りに腰を下ろした。

「それ、誰のか分かってる?」

ティキ・ミックは女の問いに目だけで笑ってみせた。

「俺のじゃないこたぁ確かだ」

彼がこんな甘い煙草に手を出したきっかけは深い溜め息をして、諦めたように自らも煙草に手を伸ばした。

「貴方のせいでうちの天井は黄色になったわ」

「よく言う。お前も吸うだろう?」

「嗜む程度に、ね」

言外にお前のは嗜む以上だと告げられた気がしたが、それもそうなので何も言い返すことをしなかった。代わりに煙を含んだまま口付けてやった。

「……副流煙で私を殺す気?」

「いやなに、甘いキスという奴をやってみたかっただけさ」

煙まで甘いだろう?
ティキ・ミックは次に張り替える壁紙の色を思案しながら、また煙を含んでは、少し嫌がる女の唇を塞いだ。

アロマバニラの憂鬱

(今度は黒にしようか)

(嫌よ、気が滅入る)

(おいおい、俺の色だろう?)



2009:06:08









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