短編(その他/過去) | ナノ
気が滅入るような曇天。
冷たいしずくをそこらかしこに降りそそいでいる。
今日の天気は雨である。
「はぁ……」
万屋の窓から下の通りを眺めていたら、隣りにいたボサボサの銀髪の男が重い溜め息をついた。
「珍しい、銀時が溜め息なんて」
「そりゃおま、この天気だぜ? 溜め息の一つや二つ出るっての」
そう言いながら彼は頭をがしがしと掻く。いつもボサボサな銀髪は通常より3割寝癖の酷さを増している。
「今日は一段とアグレッシブな髪型だね」
「何なのそのフォロー。そんなに銀さんの髪は攻撃的ですかこの野郎」
眉をしかめながら、せめてものと髪を撫で付ける銀時に自然と口許がゆるんだ。
それをみた銀時は何を思ったのか、私の頭におもむろに手をやった。
そして髪を一房すくうと、それを眺めながら羨ましそうに溜め息を吐く。
「大人しい髪しちゃってまー。俺の髪と取り換えっこしようや」
「どうやってするんだよ。
ていうかそんなに大人しくないよ。今日はいつもより浮いてるし」
「銀さんにとっては誰でもマシなんですぅー」
「あぁ、そっか」
「納得しちゃったよこの子」
自分から言ったくせに落ち込む銀時から視線を外し、再び外を見やる。色とりどりの傘が見えた。
「……何かあんのか?」
同じように外を見た銀時に首を横に振る。
「何もないよ」
「じゃあ何で見てんだ? 雨なんてつまんねぇだろ」
気が滅入る、と彼は小さく呟いた。
私もそれに頷いた。それでも視線は外に向いていた。
どことなく窺うような声で、銀時が問う。
「もしかして雨、好き?」
「ん? んー……そだね、好きだ」
これが好き、という意味で合っているのかは分からないけども、多分好きなのだろう。
銀時はそれにいつものやる気のなさそうな声で、ふぅん、と答えた。
「世にも珍しい奴だな」
「そう? 結構いると思うけど」
「俺にゃあ分からんな。一体何処が好きなんだ?」
「んー、そうだなぁ」
この思いを言葉にするなら何が良いだろう。
「……なんというか、優越感?」
「は?」
「私もね、雨に濡れるのは余り好きじゃないよ。洗濯物だって乾かないし髪だってほら、ボサボサするし」
「そうだな」
「好きだっていったのは、私は家の中から見る雨が好きなんだよ」
こうやって、と言いながら微笑む。
「傘を差しながら歩く人を見てたらさ、何か『勝った』とか思わない?」
「……とんだドSだなオイ」
私の答えにがっかりしたのか、彼はまた溜め息を吐いた。
「あれ? 思わない?」
「銀さんはサディステック星の生まれじゃないので違います」
「何それ」
「知り合いに一人そこの王子がいる」
「マジでか。今度紹介してよ」
「やめとけ。お前は精神的ドSだが奴は物理的ドSだ」
関わったら火傷しちまう、と疲れたように言う銀時に唇を尖らせた。
「そもそも私、ドSじゃないんだけど」
「さっき俺にその片鱗を見せただろうが」
「あれはポジティブシンキンっていうの」
「全国のポジティブシンキンさんに謝りなさい」
「サーセン」
「何なのこの子。変わり身早すぎるよ銀さんついていけないよ」
「仕方ないよ」
「年かな」
「ああー」
「だから納得するのやめてくんない?」
レイニーガール
(雨の日も、隣りに君がいれば)
2008/04/25
レイニーガール