短編(その他/過去) | ナノ


血みどろの体を蹴った。聖職者ともあろう男が、と叱るような猛者は残念ながら戦場にはいなかった。そこにはもう、男と血みどろになった女しか、息をしている存在はいなくなっていたから。

この世でいっとう聖職者らしくない男は、俯せになっている女の体を爪先で仰向けに転がした。仰向けになった女の顔は酷く白かったが彼女は何故か、笑っていた。

「きっもちわりぃ。笑うな」

苛立ったように彼女の頭を蹴った。数メートルの距離を飛んだ女はごろごろと転がって、血と土にまみれた団服が更に汚れた。

空いた距離を、男は長い足ですぐに縮めた。浅く呼吸をする彼女の傍らに、そのままかがみ込む。絶え絶えに言葉を発する女の声を聞くために。
声はとてもか細かったが、芯まではなくしていなかった。

「死にそうな、怪我人けるなん、て。ほんと、馬鹿です、ね」

「馬鹿とはなんだ。俺は皆公平にぶっ殺すんだよ」

「あは、は。元帥、らし……」

咳き込んでは口の端から血を流す女はこの状況で笑ってみせた。
血を拭える程度の力すらない女は、それきり目を瞑ると喋るのをやめ、また浅い呼吸を繰り返した。
男は返り血で汚れた顔を少しだけ、歪めた。

「馬鹿はてめぇだ、さっさと死んじまえ」

そう男が言い捨てたのと同時に、女の体を浮遊感が襲った。お腹回りを引っ張られている感覚。少し息が苦しい。
薄く目を開けて、彼女は気付いた。

「言ってることと、やってることが、」

「るせェ、黙れ」

腹に響く声で一喝されて、女は言う通りに黙ったが、すぐに上の方で苛立ったように鼻を鳴らすのに気付いた。

「てめぇのためじゃねぇ」

女に言い含めるというよりも、自分に言い聞かせるという風に低く唸る。

「ああ、全く。不本意だ」


なれのはて

(つまらない、なんて)







2009:06:08






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