「無様だなあ」 足元に転がる体は全体的に汚れていた。軽く蹴ってみると睨まれた。傷付いた獣の目だね、それは。いつもと違った高さに面白くて堪らなくて、続け様に何回か蹴ってみると足首を強く掴まれた。 「歩けなく、してやろうか」 低い声で脅しておられるようだこのお方は。おお怖い、とその手を乱暴にふり払おうとしたけれど手負いの獣ほど恐ろしいものはない。掴まれた足首に広がる熱と鈍い痛みが脳に刺激を与える。少し、怒らせてしまったようだ。 「落ち着きたまえよ、なあ神田君」 「俺は至極落ち着いているとも。ああ、俺は至って冷静だ」 足首の痛みが一際強くなったと思ったら、次は体の半分に強い衝撃がきた。頭を打った。加えて頬が擦れて痛い。 「君と言う奴は!」 「お前、人の事言えないくせに」 そのぼろ雑巾のような体の何処に眠らせてあったのか、存外強い力で声のする方に引っ張られる。腕から伝わる熱は少し高い。 「あーあ、服が台無しだよ」 君には多分一生分からないだろう。帰りを待っていた女がわざとらしいほどに綺麗な格好で出迎える気持ちなんて。 「お前は泥だらけでいい」 そんなことをのたまう男の帰りは薄汚れた作業着で構わないかい? 「俺とおんなじだ」 「はは、ごめん被るよ」 おかえりなさい ただいまを言う前に抱き締めて汚してくれないか (あとな) (なんだい) (お前、パンツ見えてたから) (!) 2009:06:06 |