短編(その他/過去) | ナノ


私は忍びである。親代わりだった半蔵さんに仕込まれた忍術は自分でいうのもなんだが、なかなかのものである。今は主人をたがえたために、彼とはもう戦場でしか顔を合わせる機会はないけれど。

私は忍びである。冷淡に、慎重かつ迅速に与えられた任務をこなす必要がある。敵地の情報、城の見取り図、密書の運送・奪取などなど。地味な任務だが必ず戦局に関わる重大な任務だ。暗殺や色を使うこともあるはずなのだが、それを今の主は愛がどうのこうの、義がうんたらかんたらと言って決して許してくれない。良い主人だがたまにこうやって頑固になるのが玉に傷だと思う。

重ねていうが、私は忍びである。隠密に行動しなければならない。願わくば誰にも見つからずに、侵入したことも分からないまま全て終わらせたい。任務においてはそれなほぼ達成されるが、何故か主人にだけは居場所をいつも掴まれる。城にいるときだけ気が緩むのかと一度主の寝室の天井裏に侵入したことがあるが、ものの見事に見つかりうっかり布団の中に連れ込まれそうになった。そこから逃げ出す前に主に何故分かるのかと聞いてみると、愛の力だという言葉と温かい笑顔が降って来た。修行しなおしますと言えば花嫁修行だなとさらに深く笑ったのでやはりあの主の頭は何処か螺子が緩んでいるのだろう。


愛に苦悩


何度も言うようだが、私は忍びである。恋愛は法度というより興味すら殆ど失っている。だから愛してるだとか私に永久就職しろだとか言われてもほとほと困る。一介の忍びにそんなことを望むよりも早く姫の数人でも娶ってくださいと諫めても彼は聞く耳を持たないでまた笑う。私は困る。

でもそうやって甘い言葉を吐く時の主の笑顔は酷く心地いいため、しばらくの間だけ聞いてやろうかとも思うのだ。


(せいぜい足掻いてください)






2009-09-20



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