短編(その他/過去) | ナノ
一緒に暮らす前に、私たちは約束をした。
「ちょっと三成!」
「なんだ」
「新聞は廊下に積まずに玄関の袋の中に入れてって言ったじゃん」
「あ」
「あと食べたら食器は流し台の中」
「面倒だな……」
「ちゃんと最初に決めたでしょ」
一緒に暮らす前に、私たちは生活する上でたくさんの決まり事を約束した。それは新聞をなおすことだったり、食器を流し台にいれることだったり様々だが、お互いのために決めたことだ。
面倒くさいことは承知の上。
こっちだって面倒なことを決めたのだから。
「ほれ、遅刻するよ」
「おい」
「三成、時計つけた? ネクタイは……よし、歪んでないな」
「おい」
「あ、寝癖ついてるよ」
「お・い!」
「……何」
「決まり事、忘れたのか」
縦に数本痕がついた眉間に、お決まりの皺を浮かべる。
そうして次の瞬間、機嫌の悪い顔に不似合いな台詞を言った。
「行ってきますのちゅうはどうした」
「……三成がちゅうとか言うのすごく似合わない……」
「さっさとしろ、遅刻するだろう」
ん、と自分の顔を指差しながら偉そうにしている三成に舌打ちを付きたくなったが我慢した。
「出かける時にはちゅう」という阿呆みたいな決まり事を決める代わりに、私はさっきの事を守ってもらっている。
しかし毎度毎度、恥ずかしくないのかこの男は。
「……行ってらっしゃい」
背伸びもせずに、ほっそりとした頬に口付けた。少し乱雑だったかもしれない。
「行ってくる」
それでも、この満足そうな笑顔が私は一番好きだった。
そんな月曜日の朝。
2009-08-22