君は遠い人 | ナノ
エルヴィン団長の話が終わると、今日はそのままお開きとなった。
どうやら明日、ちょうど壁内に帰還するとのことで、今日はこのまま地下牢で休むことになりそうだ。
雰囲気は良くないが、ベッドはある。寝心地はどうだかわからないが、休むことはできそうだ。
昼間に少し昼寝をしていたので特に眠くはないが、外はもう暗い時刻らしい。
エルヴィン団長は失礼する、とその場を辞した。
が、肝心のあの方が動かなかった。
じっと、檻の向こう側から私を睨みつけている。
「……」
「……」
「……」
「……」
痛いほどの沈黙が続く。向こうは話しかけるつもりはないらしく、ただただ、睨みつけている。
冷や汗が背中から噴き出すようだ。
誰かにこんなにも強い視線を送られたことは、今迄の人生でなかった。
「……」
「……」
「……」
「……あの、」
ついに沈黙に耐えきれなくなった私は、思わず声をかけてしまった。
低く鋭い声で、リヴァイ兵長は返事をする。
「なんだ」
「いや、なんだって……ずっと、その、見られているので」
何か用ですか。そう聞くと、彼は大きく舌打ちをした。
私、何か悪い事した?
石造りのため、音が異様に反響するので、彼の舌打ちの音がいつまでも耳の奥に残っている。
「用がなきゃ見ちゃいけねぇってのか」
「別に、そういう意味ではないんですけど……」
何か、妙に怖い。いや、先ほどのやり取りも十分怖かったのだが、反応が妙に少ない。静かに怒られるのが一番怖い。
「何か、怒っていらっしゃるようなので」
「俺が怒っている、だと?」
「は、はい……」
言った後で後悔した。「何にもないです! おやすみなさい!」と言っておけば、会話も途切れてそのままどこかへ行ってしまいそうなものを! 私としたことが!
リヴァイ兵長の反応にびくびくと待っていたが、その反応は拍子抜けするものだった。
「いや、そうじゃない。怒っているわけじゃねぇ」
声も表情も不機嫌そのもののくせに一体何を言っているんだ。
「ただ、お前の今後を考えていただけだ」
「……へ?」
「どうやら俺が、お前の教育係になるようだからな」
「……ええ!?」
リヴァイ兵長のその言葉に白目をむきそうになった。
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