君は遠い人 | ナノ
ここは、いったいどこなんだろうか。
目の前に広がる光景に、ただ私は茫然としていた。
きっかけは、本当に分からない。
ただ、漫画を読んでいたのだ。友人に借りた、異世界を舞台にした漫画。
巨人という存在が人類を脅かしている世界。人々は常に巨人の存在に怯えながら暮らしている。その中で、巨人に立ち向かおうとする少年を描いたもの。
ただ薦められたままに読んでいたのだが、気付けば夢中で読んでいた。そしていつの間にか眠っていたらしい。
しかし、目が覚めた場所は、自分の部屋のベッドの上ではなかった。
外にいたのだ。
しかも、森の中に。
天気はよく、木々の隙間から光が漏れ落ちている。とても気持ちのいい朝なのだが、私が座り込んでいる傍らを大きな人のような存在が先ほどから何回も通り過ぎて行った。
巨人だ。漫画の中で見たのと同じ、巨人。体型はいびつで、人に似ているけれど人ではない存在。
座って空を見上げているものもいれば、川に入って水に触れているものもいる。肩や腕に鳥を止まらせているものもいる。
今の彼らの様子からは、あの凄惨なシーンは連想できない。
始めて巨人を目にしたときはぞっとした。
目を覚まして、ここが何処なのかを確認するためにうろちょろと歩いていると、3メートルほどの巨人に出くわしたのだ。
頭の中に、漫画でのいくつものシーンが思い浮かぶ。
恐怖感で身動きがとれなかった。
こちこちに固まった私に向かって、ゆっくりとした動作で巨人が歩いてくる。
「い、いや……こないで……!」
そんな声を出してずりずりと後退するが、手遅れだと頭の中では分かっていた。
ああ、あの漫画のように、食べられてしまうのだ。
目に涙をにじませた私を見下ろす巨人は、けれど私に手を伸ばそうとはしなかった。
しばらく見下ろしたと思えば、そのまま通り過ぎていってしまったのだ。
「え……? 助かった……?」
いったいどういうことだろうか。漫画で見た、あの巨人に間違いはないのに、私を襲わずにまたどこかへ行ってしまった。
何故だろうと理由を考える時間さえなかった。
安心感でその場に思わずへたり込んでしまった。どうやら腰が抜けてしまったらしい。
けれども安心したのもつかの間だった。
また、あの巨人が来たのだ。
「ま、また……!」
気が変わって、やはり食べようと思ったのだろうか。再び緊張感が体中に満ちる。
そして今度こそ、手がのばされた。
食べられる……!と思って思わず目をつぶった。ついで、浮遊感。どうやら持ち上げられたらしい。
このまま口の中か……と思ったが、いつまで経っても痛みはやってこない。
うっすらを目を開けると、なんとつかまれたまま移動を開始していた。
「え……?」
ゆっくりと、森の中を巨人は歩く。先ほどから何だか変だ。巨人は人間を食べる。彼らは人間を見るとどんな状態でも襲ってくる。そう、漫画の中の世界では言われていた。
けれど、今の状態はいったいなんだろうか。巨人に運ばれているものの、その手つきはまるで割れ物に触るような優しさすら感じさせる。
抵抗をしようと思ったが、抵抗すると何をされるのか分からないのでやめておいた。
そのまま運ばれていくと、開けた場所に出た。
まるで巨人の巣のように、何体もの巨人がそこにいた。
そして冒頭に戻るわけである。
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