君は遠い人 | ナノ



その後が大変だった。

巨人は無事、リヴァイ班のメンバーによって討伐されたが、その後彼らは私に詰め寄ったのだ。
まあ当然のことだろう。目の前で巨人の視界に入っていながら見逃されたのだ。

そして、先ほどとは待遇が違う形で壁外調査のための基地に連れて行かれることになった。
「詳しい話は、基地の中で」とのことで、どんな形で運ばれているのかというと、ロープで体をぐるぐる縛られた上、リヴァイ兵長の鋭い監視下の元運ばれている。
ロープはきつくもなく緩くもない状態だ。つらくはないが、少し息苦しい。それに馬に乗っているので上手くバランスが取れない。
おかげで後ろには載せられず、あいなく兵長と馬の間にお邪魔することになった。
ペトラさんにちょっとうらやましそうな目で見られたが、こっちは決して希望した訳ではない。

そんな形で馬に載せられ、ものすごく居心地の悪い乗馬体験をした私は、基地に連れ込まれた。そして有無を言わさず、地下牢に放り込まれた。

放り込まれる前に縄を解かれたので一息つけたが、檻の中に入るのは初めての体験だったのでまったく休めない。というか、牢の前にいる人は休ませる気はないらしい。

「単刀直入に聞く。お前は何者だ」

導入もない、世間話もない。ただ事実を知ろうとするリヴァイ兵長の鋭い声に、息が詰まりそうになる。

「いや、何者かと言われましても……」

貴方がたと同じ、人間なんですけれども……。
そう伝えると、兵長は露骨に嫌な顔をした。

「正直に言わねぇと、削いで正体調べるぞ」
「い、いやいや……。人間ですよ私……」

恐ろしい言葉にうろたえるが、人間であることを主張した。
本当に向こうの世界では正真正銘人間である。日本人だ。
とはいえ国籍を言ったところで、通じないだろうが。

「……では質問を変える。お前は巨人に襲われない術を持っているのか?」
「いえ、知りません」
「ではなぜお前だけ襲われなかった?」
「知りません。私も知りたいくらいです……」

ただ、見当はついている。
おそらく私が異世界の人間だからだろう。
巨人が襲うのは、もしかしたらこの世界の人間だけかもしれない。ほかに襲われない人がいたら確認してみたいのだが、彼らの反応を見るとそういう人間はいないのだろう。

私が襲われないことを見たリヴァイ班のメンバーの反応は、皆一様に驚いていた。
幻でも見ているようだ、と誰かが言った。
巨人は人間とみると見境なく襲いかかるものだと皆知っているのだ。

そこで浮上したのが、私が人間ではなく巨人ではないのかという恐ろしい説だ。確かオルオが言っていたような気がする。余計なことを言ってくれたもんだ。おかげでこの仕打ちだ。

リヴァイ兵長は私の返事に未だ納得がいっていない様子で、しきりに舌打ちをしている。怖い。

「お前が吐かねぇと俺は眠れねぇんだよ」

そして勢いよく、檻を蹴る。鉄の音が地下牢の石廊下にいやに反響する。
そのまま檻の扉を開き、彼は中に入ってくる。私は自然に身構えた。
彼は剣を持っていたからだ。巨人を討伐する時に使用する、切れ味のいい剣を。
そしてその切っ先を、私の喉元に向けた。

「今すぐ吐け。何でもいいから」
「ひっ。や、やめてください……」
「あぁ? うるせぇよ」

そのまま、切っ先を私の喉に引っ掛ける。ちり、と痛みが喉元に走った。どうやら浅く
切られたようだった。その瞬間、冷や汗が体中から出た。
この男は本気だ。私が何もしゃべらないとこのまま首を切るつもりだ。


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