君は遠い人 | ナノ
夢を見ていた。
何だかよく分からない夢だった。
とにかく私は無我夢中で石に頭をぶつけていた。理由はよく分からないが、とにかくそうしなければならないのだ。
がつん、がつんと断続的に頭に衝撃が走る。夢だから痛みは感じないはずなのに、だんだん頭が痛くなってきた。
そこで、目が覚めた。
「……いっつ……」
何だか頭がじんじんする。夢の続きだろうか、と思ったがこの痛みはとても現実的だ。
うっすら目を開けてみると、相変わらず天井ではなく背の高い木の茂みが見える。
ただ先ほどの目覚めと違うのは、とても目つきの悪い男の人が、私を見下ろしていたことだ。
しかもこの顔、なんだか見覚えがある。
目つきは鋭いのに、顔の作りは整っている。
「……え?」
もしかして、この人……。
そんなことを考えた瞬間に、彼は私から視線を外し、歩き去っていった。
「ペトラ、そこで寝ている奴を今起こした。様子を見ておけ。俺は周りの様子を見てくる」
「はい」
男は、傍に立っていた女性にそう命令すると、そのまま馬に乗って颯爽と駆けて行った。
私はただ茫然とその姿を見送ることしかできなかった。
そして、思わずつぶやく。
「……リヴァイ兵長だ」
「あら貴女、兵長を知っているの?」
そんな私に声をかけてきた女性の名前も分かる。
どうやら、私は本当に漫画の中の世界に入り込んでしまったようだ。
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