君は遠い人 | ナノ


手元の地図を見ても、何もわからない。というか、この地図で分かる人がいるのか。簡単な地図、といっても線と丸しかない。どうしてこれでいけると踏んだんだ、私。

「どうしたもんか……」

兵服と、紙の束を持ってしばらくそこら辺をうろちょろと歩いてみるものの、それらしい場所は見当たらない。
一度執務室に戻ろうかと考えたが、残念なことに執務室の場所がすでにもう分からない。

「……どうしたもんか……」

とりあえず、歩くのをやめた。迷っている時に闇雲に歩いていてもしょうがない。立ち止まって考えよう。

今私がいる場所がどこか分からないが、広い建物の二階であることは間違いない。
そして、私の部屋のある場所も二階だ。
絶対にこの階にあるはずなんだよなぁ。

疲れたので床に座ってうんうんと唸りながら考えていると、頭上から声が降ってきた。

「どうしたの?」

少しハスキーだが高めの声。顔を上げると、その人物の事を私は知っていた。

ハンジさんだ。
親切そうな顔で、私の事を見下ろしていた。

「うえ!? あ、えっと……」
「君、新人かい? ここの建物、ばかでかいから迷っちゃうよねー」
「あ、はい……」

からからと陽気に笑うハンジさんに、少しだけほっとした。
そういえばこの人は、巨人に関係すること以外では割とまともな人間だった。

「で、どこに行きたいの?」
「ここです……」

そんな彼に、紙束ごと渡した。
彼はふんふんと紙を見て、くすりと苦笑した。

「これ、エルヴィン団長が書いたものでしょ。あの人、地図書くの下手くそなんだよねー。こんなの普通の人じゃわかりっこないよ」
「そうなんですか?」
「ここ、君の部屋? 私は分かるから、案内してあげる。……おや?」

ハンジさんは紙の束の中から、一枚の書類を取り出して、そして絶叫した。

「う、うわああああああああ!!!」
「ひっ!?」

思わず彼から一歩後ずさる。いきなりどうしたんだ。

「こ、これ! この書類! これって団長の書いたものでしょ!?」

ものすごいテンションで紙を見せられたが、彼の手がぶるぶる震えていたので何も分からなかった。

「君! 今日から調査員としてやってくるっていう、あの巨人に襲われない人だよね!!」
「え!? あ、まぁ……」
「うわあ! すごい! 本当に普通の子だ! なんで? なんで襲われないの?」
「えと、分かんないです……」
「あ、それはまた追々調べよう! 協力してくれるよね? お願いだからさ!!」
「は、はいぃ……」

なんというテンションの変わりようだろうか。これぞまさにハンジさんの真骨頂。
けれど彼はハッと我に返ったようで、私に謝った。

「ごめんごめん! つい興奮しちゃって。まずは最初に君の部屋に案内するよ!」

ついてきて! と歩き出したハンジさんを慌てて追った。
会うのはもう少し後だと思っていたが、まさかこんな場面で会うとは。
それにしても、漫画でもあったが巨人に関係することは本当に人が変わるようにテンションが上がる。
この人と後でまた会うのか、と思うと少しだけ気が重いが、悪い人ではない。今はただただ感謝しておこう。



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