君は遠い人 | ナノ


そして、ようやく壁内に帰還することになった。

私は、物資とともに荷馬車に乗ることになった。荷馬車の前後左右には、特別作戦班のメンバーが固めている。

「だいたい昼すぎくらいには壁内に入る。それまでここでおとなしくしておけ」

そう、リヴァイ兵長に念を押されたので、おとなしく座っていることにした。
そうでなくても、ひどく揺れるのだ。

舗装されていない道を走る馬の速度は早い。そして揺れる。
吐き気をごまかすために、横になった。ちょうど、物資を衝撃から守るための毛布が何枚か用意されていたので、そのうちの一枚を拝借して枕代わりにした。これで少しはましになった。

そのまま、瞼を閉じる。起きていたって暇なだけだし、酔いが悪化するばかりだ。
そうして、ひどい揺れが心地よく感じてこれた時に、頭に衝撃が走った。

「うっ……」

今度は一発で起きた。のそり、と起き上がると、すでに荷馬車は止まっていた。
そして今回も私の頭を蹴ったのは。

「リヴァイ、兵長……」
「のんきに寝てやがんな。着いたぞ」
「あの……起こし方を……」
「寝てる方が悪いだろ」

私の声に耳も貸さずに、リヴァイ兵長はさっさと荷馬車を下りて行った。
馬車が止まり、彼が起こしに来たということは。

「ついた、のか……」

この世界で唯一、人間が暮らせる場所。
巨大な壁に守られた街。

痛む頭を押さえながら、荷馬車から出た。すると、すぐ近くにエルヴィン団長が立っていた。どうやら私を待っていたらしい。

「起きたか」

寝ていることもばれているようだ。

「す、すみません……」
「いや、いいさ。これから忙しい」

くすりと微笑をもらした団長は、こちらに、と私を案内した。
大きな建物で、人もたくさんいる。そしてそれらの人々の背には。

「『自由の翼』……」

ここが、調査兵団の壁内拠点らしい。

エルヴィン団長に導かれるがまま、その建物の中に入っていく。何度も、兵士から敬礼を受けた。心臓を捧げる敬礼。私は団長の後ろにくっついて、それをこわごわとみていた。
敬礼をする兵士たちも、団長のあとにくっついている私を不思議そうな目で見送った。

そして、とある部屋に行きついた。
大きな部屋で、本棚が壁一面にある。部屋の中央には大きなデスクがあり、そこにエルヴィン団長が座ったことで、ここが彼の執務室ということが分かった。

「早速だが、君に行ってもらいたいところがある」
「はい」

彼から、兵服一式と、紙の束を渡された。

「とりあえず、君と体格の似ている者の兵服を用意した。これに着替えてから、この地図のところに行ってくれ」
「……ここは?」

紙の束の一番上に、簡略化された地図が書かれていた。

「調査員の仕事場だ」
「……はい」

なんとなく、これから会う人物の予想はついた。

「服は、君の自室で着替えてくれ。自室としてゲストルームを用意した。場所は、二枚目に地図を書いておいた」
「え? あ、ありがとうございます」

昨夜話していた通りの内容だが、自室まで与えてくれるとは思いもしなかった。

頭を下げて、そのままその場を後にした。とりあえず、まずは自室に行こう。そこで着替えなければならない。

しかし、それは難航を極めた。

「……分からない」

執務室から出て五分後。私は迷子になっていた。

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