君は遠い人 | ナノ
「明日は壁内に帰還するが、帰還後すぐに俺のところまで来い」
有無を言わせない圧力を持つリヴァイ兵長の声に、私は頷くことしかできなかった。
人類最強のスパルタ指導で、果たして私は一週間生き抜くことが出来るのだろうか。
今から不安である。
「さて。そろそろ寝るか」
リヴァイ兵長は立ち上がった。どうやらそろそろ出て行ってくれるらしい。ようやく休める……と胸を撫で下ろしたが、あろうことか彼は檻の中に入ってきた。
私はベッドに腰掛けていたので、驚きでベッドに倒れこみそうになった。何故入ってくる。寝るのではなかったのか。
「おい、どけ」
「っえ?」
理由も何も聞かされないまま、リヴァイ兵長がベッドの上の毛布を剥ぎ取った。
そしてそのまま檻の外に出ると、置いてあった椅子に座り、毛布を体に巻きつけた。
私は混乱した。
「えーっと、その……寝るのでは?」
「何言ってんだ。当たり前だろうが」
「でもなんでそこで……」
「お前の監視だ」
「えー……」
何ということだ。いや、監視くらいはいるだろうと思っていたがまさかリヴァイ兵長本人だとは思いもしなかった。最悪だ、休むに休めない。しかも毛布を取られた。地下牢は薄っすらと寒く、毛布なしでは心許ない。
しかし、兵長に「毛布返して下さい」と言えるはずもなく。
仕方なく毛布のないベッドに横になった。毛布の代わりに、薄いシーツを体に巻きつけた。
下手をすると風邪を引きそうだ。しかし文句は到底言えない。
ろうそくは夜通しつけるらしく、ゆらめく火の光をじっと見つめていた。
眠くないと思っていたが、体は存外疲れていたようだ。段々と瞼が重くなる。
それにしても、今日は色々なことが起こった。
異世界に、しかも漫画の世界に入り込んでしまったのだ。こんな経験、ほとんどの人がするまい。
何の拍子に入り込んだのだろう。何か理由があってここに来たのだろうか。私には使命が与えられているのか。
いきなりこの世界に来たなら、元の世界に帰る時もいきなりのはずだ。
帰れたら、の話だが。
……眠気で考えがまとまらない。
深く考えるのはしばらくやめよう。
とにかく、今を生き抜かなくては。
瞼の重みに抗わず、そのまま落ちるに任せた。
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