君は遠い人 | ナノ


思わず声が裏返る。

「な、なんでですか!?」
「なんでも何も、お前の正体知ってるのは俺とエルヴィンだけなんだ。適任は俺だろう」

エルヴィンがお前の面倒見るのも無理だしな、それにしてもめんどくせぇ。
おおっぴらに文句を言い、またしても舌打ちをした。

私は記憶をたどって、なぜこんなことになったかを思い出そうとしていた。

何となくだが、先程の話の中でエルヴィン団長が「立体機動を覚えてもらう」みたいなことを言っていた気がする。
まさかこの事だろうか。

しかし、物事には順序と適材適所というものがある。
人類最強は人類最強らしく巨人の肉を削いでいてほしい。

「い、いや、リヴァイ兵長もお忙しいじゃないですか!? 私の面倒を見る時間なんて……」
「知ってるか? 調査兵団は外に出るのが仕事だ。壁内じゃ余程の事がなけりゃ仕事なんざねぇよ」

お前は調査員としての仕事はあるけどな。
私を絶望の底へ叩きつける言葉を平然と発したリヴァイ兵長は、あからさまに落ち込んだ私を気にせず、思いついたように問いかけた。

「お前、運動は得意か?」

いきなりの質問に、返すのが遅くなった。

「え? 運動、ですか?」
「ああ。長距離、短距離、筋力。ある程度はできるんだろうな」
「えっと……」

自慢ではないが、体育の成績は常に3をキープしていた私だ。

「すみません。期待してる程できません……」
「……」

リヴァイ兵長の顔が見れない。恐らく先ほどよりも物凄い形相で私の事を見下ろしているだろう。恐ろしくてまともに直視できない。
いや、運動できないことはないのだが、この世界での「ある程度」というハードルが高いのだ。平和ボケした現代の日本で、アスリート以外誰が体を鍛えるというのだ。

しばらくして、再び舌打ちが聞こえてきた。

「……立体機動は知っているな」
「は、はい」

それはしっかり知っている。ガスとワイヤーで空中を縦横無尽に駆ける装置だ。
兵士になるなら、この立体機動ができなければ話にならない。

「立体機動は全身の筋肉を使う」
「う……はい」
「お前のその貧弱な体つきじゃ、まともに使いこなせん」
「はい……」
「一週間だ。明日から一週間、毎日トレーニングする」
「……え?」
「聞こえてるだろ。一週間で立体機動を乗りこなせ」
「ええー!?」

また突飛なことを言い出しましたよこの人は!

「で、できるわけないじゃないですか! 一週間て、一か月とかかかるでしょ普通!」
「お前は巨人を狩る訳じゃねぇんだ。奴らのうなじに飛べるような、そこまでの技術はいらん。普通に移動できるようになってみろ」
「え、ええ……?」

ハードルを下げられたが、難易度的に難しいのは変わらない。
しかしこれ以上私が何を言っても、彼の機嫌を損ねるだけになりそうだ。

「できるか分かりませんが、頑張ります……」
「出来る出来ないは関係ない。やれ」
「はい……」

人類最強はやはりスパルタらしい。


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