君は遠い人 | ナノ



このままでは殺されてしまう。漫画のキャラに殺されるなんて、彼のファンなら喜ぶシチュエーションかもしれないが実際に死の瀬戸際に立たされている私としてはそんな感情を微塵も感じない。恐怖しか感じない。

「ちょっと、ちょっと待ってください! 心当たりならあります! 話しますから!」
「……本当か?」
「だから剣を下してください……! 首痛いです!」
「ふん……」

目だけで相手を殺しそうなほど目つきの悪くなっていた兵長だが、私の言葉で剣を引いた。しかし、柄には依然手をかけているのでいつでも切りかかれる。

どきどき鳴る心臓と、したたりおちる血を手で押さえながら、私は息を整える。
しっかり話さないと。ここで中途半端に話をすると切り殺されかねない。

「……実は、私はこの世界とは違う世界から来ました」
「……」

その言葉で兵長の手が動いた。が、先に牽制した。

「うわ! ちょっと待って! 本気で話していますので!」
「……ふざけていないのか?」
「もちろん! 事実のみを話します! なので剣は……!」
「……ふん」

不機嫌な兵長にびくつきながら、私は経緯を話す。
他の世界から来たこと。その世界はこの世界とは文明が違う事。
そしてこの世界の巨人や兵団の話は伝説のように語られていること。

最後は私が付け足したが、兵長に漫画という概念を伝えるのが難しかったためやむなく「伝説」としておいた。有名なのは間違いないのでこれでも大丈夫だろう。

そうして兵長の反応はというと。

「信じられんな」
「ええー!!」

また先ほどと同じ状態になった。蛇に睨まれた蛙のように私は牢の中のベッドにしがみついている。兵長が向けている剣から距離をとるためだ。

「事実ですって!」
「じゃあそれを証明して見せろ」
「そんな……」

いったいどう証明すればいいのか。
少し悩んで、いいアイデアが思い浮かんだ。

「じゃ、じゃあ、皆が知らない話をすればいいですか?」
「どういうことだ」
「たとえば、リヴァイ兵長の話なんか……」

そう口にした途端、彼の瞳がぎらついたようだが、そのまま頷いた。

「言ってみろ」
「は、はい」

そして私は兵長についてしゃべることにした。
よく考えろ私。

「ええと。向こうの世界では、貴方は昔、皆が恐れる地下街のごろつきだったと言われています。そして、ある日エルヴィン団長に下る形でこの調査兵団に入った。そしてものすごく綺麗好きで新しくやってきた場所は初日に大掃除するとか。あとは……」
「……なんで知ってる」
「ええ!? だから今話せって!」

言ってみろって言ったじゃないか! さらに不機嫌そうになってしまったリヴァイ兵長は剣を納めようとしない。どうしようもない。
このまま殺されると直感した。
ああ、漫画を貸してくれた友人はリヴァイ兵長が好きだったけどこの状態を見たらどう思うだろうな。私だったら100年の恋も冷めるよ。

あわや私の命が絶たれるという時、牢の中に救いの声が響いた。

「やめろ、リヴァイ。脅しても良い情報は得られない」
「エルヴィン。遅かったな」

檻の外から私たちを眺めているのは、かのエルヴィン団長だった。



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