境征参加 | ナノ




佐助は、心底、ここに向かってよかったと思った。


部下の持ってきた情報によると、伊達軍は慎重に森を抜けてきている。

おそらく、武田にも上杉にも存在を知られないようにしていたのだろう。
しかし伊達の主は失念していた。

忍の存在が、情報戦で如何に役に立ち、かつその網をくぐるのが難しいのかを。

自分の部下の張った情報網に見事に引っかかった伊達軍の居場所はすぐに分かった。

ただそこに、上杉の忍隊がいることは予想外だったが。

これは佐助の推測だが、かすがは自分の主が伊達の若造に狙われていると知った時、主の下に帰るよりも直接の要因を叩いてしまおうと考えたのだろう。

焦りは人を、判断を狂わせる。
普通ならば軍神のそばにはべりその身を忠実に守る忍は、主の敵を討つために自ら出てきたのだ。

そこまで思いをめぐらせて、佐助は目の前で少女を肩にかついでこちらを睨みつけている忍びを笑う。


「その子、連れて行かれちゃ困るなー」


そう言ってひょうひょうと笑ってみせる。かすがには分かっているはずだ。この笑みが嘲笑であることが。


「……猿飛。こいつは、上杉がいただく」

「そうはいかないんだよねー」


そんな間延びした声を出しながら、佐助は矢のようにかすがに向かっていった。

突然のことにかすがは体勢をくずしながらもそれを避けようと飛び上がる。

それを見越していた佐助は、かすがに、いや彼女の肩でぐったりと身を預けている少女に重石のついた縄を投擲した。


「っく!」


遠心力を利用した縄は名前の足に絡みつき、佐助はそれを勢いよく引っ張った。

そして、かすがの肩から名前の重みが消える。

かすががそれを確認する前に、下にいた佐助は名前を片腕で受け止め、もう片方の手でクナイを放ってきた。

かすがは取り戻そうと反撃しようにも、投げつけられたクナイに対応するのに力を殺がれ、体勢を崩して地面に落下した。


「っつう……」


体を打ったのか、すぐに立ち上がることはなかった。

佐助は受け止めた名前をそっと地面に下ろすと、クナイを構えた。


「ほら、さっさと帰りな。今頃軍神は一人で戦ってるんじゃねーの?」

「お、お前には関係ない」

「あっそ」


関係ない、と言い捨てながら、かすがはハッと我に返ると即座に部下たちを呼び寄せ、その場から姿を消した。

残されたのはうめき声を上げる伊達軍と、途中で気を失った名前、そして、そんな彼女をあきれたような、優しい目で見下ろす佐助だけになった。



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