境征参加 | ナノ




佐助が何かを言おうと口を開いたその時、何らかの気配を感じとって警戒の態勢をとった。

かすがも同じように身を構える。

その僅か後、すぐ近くで風音が聞こえたと思ったら一人の忍がかすがの傍らにやってきた。

それに少し遅れて、佐助の元にも自隊の忍がやってくる。

部下の顔を見て只事ではないと思ったが、二人はそれぞれに告げられた情報を聞いて、驚愕した。


「伊達軍が……!?」


部下からの情報によると、少し前に伊達政宗率いる少数の軍勢が川中島に潜入しているらしい。

そして佐助はそこに付け加えられた情報に、息が止まるかと思った。

いや一瞬、本当に止まった。


(名前ちゃんが、きてる……!?)


伊達軍が来ているのは、大方定期連絡が途絶えた影響だろう。

ここ二、三日、川中島の戦は激戦だった。

武田軍と上杉軍の双方の兵力はほぼ同じで、数では僅かに武田が勝っているといえるが、兵の質は上杉軍の方が勝っていた。

勝つか負けるかのぎりぎりの瀬戸際で、定期連絡のための書をしたためる時間や、連絡に寄越す人員を割く余裕がなかったのだ。

今、佐助はそれが大きな間違いだと気付いた。

悔しさに歯を食いしばる彼の姿を見て、情報を伝えた部下は内心酷く驚いていた。普段の佐助ならば絶対に見せない姿。だが彼自身はそのことに頓着せずに考え事に没頭した。

伊達軍と一緒に来ているあの少女は、全くと言っていいほど力がない。
毎日鍬をふるう農民の娘よりも劣るだろう。

それなのに何故こんなところまで来た。何の役にも立たない。人質の役目も、この騒動の中では意味を成さない。

これは確実に、自分たちのせいだ。


(……くそ!)


定期連絡は伊達との同盟の際に結ばれた約束事の一つである。
それは伊達軍との関係を円滑にするためだけのものではなく、半ば人質として預けられている名前を安心させてやる意味合いも持っていた。

今更後悔しても遅い。現に今、彼女は戦場にいる。

何の力もないくせに。足手まといのくせに。

自分たちの生死を確認するために。


(ああっもう!)


かすがのせいで未だぐちゃぐちゃになっている脳内で、冷静に考え事が出来ない。

取り合えずここをどうにかする必要がある。



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