境征参加 | ナノ




「――ぶぇっくしゅん!」


盛大なくしゃみをかました名前はむずむずする鼻を袖で擦った。汚い。だが今は手の方が汚れているの。

彼女は今、絶賛畑仕事中なのであった。


「どうした、風邪か? ネギまいとけネギ」


刀ではなく鍬を持ち、現場のニーチャンみたいに布を頭に巻いた農民ルックで畑仕事に精を出しているのは、奥州双竜の片割れ、片倉小十郎である。

彼は見た目に似合わず趣味が畑仕事らしく、暇な時にはよく城の裏手に耕した畑で精を出しているらしい。

城の中で政宗にからかわれながら過ごすのにも嫌気が差した名前は、ある日興味本位で手伝いを申し出たが、それが間違いだとすぐに気付いた。

農業を甘く見てはいけない。筋トレ以上に疲れるし、翌日は漏れなく筋肉痛だ。

始めたばかりの頃は鍬を振り上げることすら難しかった名前だったが、段々筋力がついてきたのか前よりも仕事が早く終るようになった。

今では野菜の成長を小十郎と一緒に喜ぶようになっている。


「いや、風邪じゃないと思います」


せいぜい誰かが噂でもしてるんでしょう、と軽く笑って鍬を振り上げる。

その隣で雑草を抜いていた政宗は、彼女をからかうように笑った。


「馬鹿は風邪ひかねぇもんな」

「へーへー、私ゃ馬鹿ですよー」


嫌味たっぷりに名前も返す。

政宗は城主であるのだが、本日「執務に厭きた」とのたまって畑仕事を手伝うと申し出たのだ。

「主人に畑仕事など前代未聞」
「それよりも執務して下さい」
と言っていた小十郎だが、全く折れない政宗に諦めて、お願いすることにした。

だが畑の事となると小十郎は主にも容赦なかった。


「政宗様! それは新芽です!!」

「あ、あぁすまねぇ」


小十郎の低い怒鳴り声にびくっと肩を震わせて、政宗は雑草と新芽を見比べる。


「何が違うんだ……」

「さっき教えてもらってませんでした?」

「分かるかよアイツじゃあるまいし」


しばらくじっと見ていた政宗だったが、不意に立ち上がると名前の持っていた鍬を見つめた。

名前はぎょっとしたが、すぐ鍬を後ろに隠した。


「言っておきますが代わりませんよ」

「女に力仕事なんざさせられるか、ほらよこせ」

「最もなこと言って雑草抜きさせようという魂胆ですね」

「分からねぇもんは分からねぇんだよ!」

「そんなん私だって分かりませんよ!」


ぎゃあぎゃあと言い合い始めた2人は、背後からの殺気に同時に口を閉じた。

恐ろしすぎて、振り返られない。


「てめぇら黙って仕事しやがれ……!」


野菜の鬼と化した小十郎に敵うものは、誰一人としていない。



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