境征参加 | ナノ




それから半日も掛からずに、目的地である奥州米沢城へと一行は辿り着いた。

薬の効果があったのか、馬上の名前は体調を崩さなかった。

女は政宗にものすごく感謝した。心の中で。


前方に遠目でも分かるほどの壮麗な城が見えてきてからしばらくしたころ、街道の向こうに大きな門が見えてきた。

石造りで派手な竜の彫刻がなされている。城下への門だろう、と名前は考えつつじっくりとその彫刻を見つめた。綺麗だ。

馬で門の前まで行くと、守衛室のような場所から数人の兵士が走り出てきてこちらに向かって深々と頭を下げた。

それを見て、政宗は労うように笑みを漏らす。


「お帰りなさいませ!」

「おう、ご苦労」


そんな彼らの様子を見て、政宗がこの地域の領主だということを今更ながら名前は実感した。


(……なんか、すっげぇ)


部下と挨拶を交わす政宗をまじまじと見つめていたらものすごく不審そうな目で見返されたので慌てて逸らした。


(……もしかして、いやもしかしなくとも、私って今とんでもない人間と相乗りしてね?)


伊達政宗、といえば教科書に名前こそ出てくるが、歴史の大まかな流れにはそれほど食い込んでこない。

名前の中でランク付けをするならば、だいたい中の上くらいの武将である。

本人にはなんとも失礼な話だが、年齢も近いこともあって、名前は今まで敬語を使っていたがあからさまな敬意は持っていなかった。

しかし此処にきて部下たちの反応や態度、そして政宗の居城らしい眼前の巨大な城を目にすると、彼女の心にむくむくと後悔のような感情が沸き起こってくる。


(やっぱ現物は違うよなぁ……)


有名どころばかりが偉いのではない、とさまざまと思い知らされた。

溜息を連発する名前に気付いた政宗は後ろを振り向いた。


「何溜息ばっかついてやがる。ようやくの到着だってのに嬉しくねぇのか?」

「いえ、何でもありませんよ。伊達……様?」


いきなり様付け、しかも疑問形で名前を呼ばれた政宗は思い切り顔を歪めた。


「なんで疑問系なんだよ。つーか、いきなり様付けたぁどういうつもりだ」

「いや……何となくですね」


言い淀む彼女の心理を悟ってか、眉を潜めたまま彼は言い捨てる。


「……止めろ、気色悪ぃ」

「気色悪いってそんな、酷い」

「そもそもお前は武田の客だろうが。わざわざ俺まで様付けしなくて良いんだよ」

「……良いんですか?」

「いいも悪いも、俺次第だ」


そういうと彼は前を向いてしまった。


(良いのかなぁ……? ほんとは私、客みたいに良い身分なんか、じゃないし)


しかし政宗はそのことを知らない。

しかもこのことはタイムスリップしたことに繋がるのだから言う訳にもいかない。


(……まぁいいや)


彼女は持ち前の適当さで折り合いをつけた。
それに様付けをするより敬語の方が慣れている。下手な敬称よりこちらの方がいいだろう。いや良い筈だ。そう思いたい。



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