境征参加 | ナノ
それからしばらくして、ようやく国主同士の話し合いの時間が来た。
約三十分間ほど政宗の背もたれになっていた名前は解放された。
「こ、腰が」
政宗は痩せてはいるが男である。かなり重いのだ。
しかもわざと負担をかけてきていたので、動くと腰が悲鳴を上げた。
しかしこれでようやく部屋に戻れる。恋しい布団を思い、痛む腰を叱り付けて立ち上がった名前は自室へと歩き出した。
しかし。
「名前、待て」
帰ろうとしたところを信玄に呼び止められた。
少し頬が腫れていて思わず笑いそうになったが堪えて、彼に向き直る。
「はい」
「実は、お主にも話し合いに出てもらわねばならん」
「……は?」
名前の目が点になった。
信玄はにこやかに笑うと、固まったままの彼女の腕を掴むと歩き出した。
引き摺られながら我に返った名前は慌てて質問をする。
「ど、どうして私なんかを」
「お主にも伝えねばならぬことがあるからだ」
「伝えなくてはならないこと……」
「そうだ。すまんな」
「い、いえ。別に」
本当は自室に戻りたくてたまらなかったのだが、信玄の言うことに逆らうつもりはなかった。
(ああ、恋しい布団ちゃん、また後でね……)
心の中で涙を拭いながら睡眠に別れを告げた。
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