境征参加 | ナノ



それからその日の午後は買い物に時間を費やすことになった。

慶次の予想通り、まつの頼んだ買い物の量は半端がなかった。


「だ、大丈夫、慶次……?」

「こんなの軽いもんだよ」

「うっそ……」


現在慶次の肩には米俵が、なんと三つも乗っている。

しかし彼は全く重い、とか苦しい、とかいう類の表情を見せない。無理はしていないようだ。
額面どおりに受け取るべきなのだろう、これは。


(すごいな慶次……。まぁ見た目からして強そうだけどさ)


筋骨隆々の二の腕を見つめながら内心そう思う。
どのようにしてここまで鍛えたのだろう。

名前の視線に気付いた慶次はアハハ、と軽く笑った。


「何? 見とれてんの?」

「や、筋肉すごいなぁって」

「そうか? まぁ鍛えてるしなー」


人懐っこい笑顔と屈強な体という、均衡の悪い組み合わせだというのに、不思議と彼にはしっくりきている。


(……でも、信玄様に比べたらまだまだだね)


武田信玄公の筋肉は、そりゃあもうすごいのだ。しかも見た目だけではない。

一度だけ彼の特訓を見せてもらったのだが、終ったあと、あの幸村が鼻血を出したり顔がパンパンに膨れ上がったりと可哀相なことになっていた。
殴られても何されても嬉しそうに「おやかたさばぁぁあ」と叫ぶ辺り、一瞬幸村はMではなかろうかとは思ってしまったのは秘密である。

慶次の腕を見ながらニヤニヤと笑ったり苦笑いしたり引き攣り笑いをしたりする名前に、怪訝そうに慶次はその顔を覗き込む。


「名前……大丈夫か?」

「ハッ。ごめん、ちょっと考え事してたら笑えてきて」

「それは思い出し笑いっつーんだよ。うわ、名前ったらやらしー」

「何処が!?」

「思い出し笑いって、やらしいこと考えるやつがよくするんだぜ?」

「やらしい……!? 信玄様の筋肉と慶次の筋肉を比較してたことが?」

「比べんなよンなもん……」

「信玄様に比べたら、慶次はまだまだだよ。頑張れ!」

「いや、だから比べられてもさぁ」


そうして時間は過ぎていった。




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