境征参加 | ナノ
道中、二人は色んな話をした。主に話し手は慶次であったが。
彼は話し上手であり聞き上手でもあったので、すぐに名前は彼と馴染むことが出来た。
「でさ、利っていう俺の伯父さんの嫁で、まつ姉ちゃんっていうのがこれまたおっかなくてさ! 利なんていっつも尻に敷かれてんだぜー」
「すごい奥さんですねぇ」
「だろー? でも飯はすごく美味いし、すごい優しくて良い嫁さんなんだ」
「じゃあその利さんって人、幸せ者じゃないですか! いいなぁ」
「俺もそう思うよ。二人はいつも仲良しだから、見てたら凄く嬉しくなる。愛とか恋ってのは人を幸せにするもんだなぁって、しみじみ思うんだ」
慶次は何処か遠くのほうを見た。利とまつ、という人に思いを馳せているのかもしれない。
それにしても何処かで聞いたことのある組み合わせだな、と彼女は思った。
何処で聞いたのだろう。
「まぁ、恋は女を綺麗にさせるって言いますしねー」
そういうと、慶次は嬉しそうな顔で彼女を見た。
「お、あんたもいける口だね」
「いやいやー」
「名前には良い人、いないのかい?」
「良い人? 良い人、ねぇ……」
彼女は時代劇を思い出した。良い人、とは多分好きな人のことだろう。
好きな人。
好き、とまではいかないが、学校になんとなくいいなぁと思う人はいた。
「……いい人、って言うほどじゃないんですか、いるにはいます。すごく遠いとこにいますけど」
そう言って苦笑する彼女に、慶次は目を見開く。
「……その人、死んじまったのか?」
「いえ、死んではないんですが、多分もう会えなさそうです」
「そっかぁ」
そう言って何処か気落ちしたいる風な慶次を励ますように、彼女は違う違うと手を振る。
「多分ですから、また会えますよ多分。だから、そんな哀しそうな顔しないでください」
「そう、だよな。ごめん、変なこと言って」
「そんなことないです。慶次さんは、恋してるんですか?」
「俺? 俺ねぇ。……最近してないなぁ」
アハハ、と笑う慶次の顔がほんの少しだけ曇ったのを、じっと見つめていた名前は見逃さなかったが、触れずにおいた。
彼にもきっと何かあるのだろう。
すぐに仲良くなれたが、そこまで聞く勇気を彼女は持ち合わせていなかった。
それから女子高生まがいなこの会話は道場につくまで続いた。
それにしてもどうしてこんなにも話が続くのだろうか、と名前は不思議に思う。どうみても慶次は年上だし、男だ。
(……ホストに向いてそうだな)
顔も良いし、口もうまい。話し上手で聞き上手。しかも性格だって良さそうだ。ナンバーワンホストだって夢じゃないだろう。
そんなしょうもないことを考えて一人頷いていると、道場が見えてきた。
中からは幸村の威勢の良い声がする。
「あ、慶次さん。着きましたよ。あそこが道場です」
「へー。あそこにいんの? ありがとな名前!
でさ、そろそろその敬語とか敬称とかやめてくんない? 慶次でいいよ!」
慶次の申し出に名前はうろたえた。
「え? でも、年上ですし……」
「友達にそんなの要らないだろ?」
「……友達?」
思わずその言葉を復唱してしまう。
友達。
まさか戦国時代に友達が出来るとは。
「……嫌か?」
少し哀しそうに尋ねてくる慶次に慌てて、とんでもない、と手をぶんぶんと振った。
「とんでもない! 逆に嬉しいですよ! いやね、初めてはっきりと友達って言われたもので驚いただけです」
清はお手伝いさんで、幸村は微妙なところにいるが明確としていないし、佐助は知り合い、という感じで友ではないだろう。
信玄は言わずもなが、である。
「お! じゃあ俺が名前の一番目の友達なのか? そりゃ嬉しいな!」
「私も、……嬉しいよ」
屈託の無い笑顔に、心がほっこりと温かくなった。
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