境征参加 | ナノ



さて、そんな政宗が外で待ち構えているとも知らず、名前は風呂を堪能した後、機嫌よく体を拭いていた。

浴衣を着る段階で、包帯のことを思い出した。


「んー……、やっぱ付けなきゃいけないかな」


手にした長い包帯を見つめながら、少し考え込む。


(鉢合わせしたら……まずいよね)


彼ら――政宗と小十郎の前では顔を隠さないといけない。

だが一度つけたものを風呂上がりに身に着けることに彼女は抵抗を覚えた。

それに今の時期包帯は暑いし蒸れる。サッパリしたばかりなのに、と名前は眉をしかめた。


(……さっさと部屋に戻れば、大丈夫じゃね?)


一人でうんうん、と頷きながら、結局彼女は包帯を懐へ仕舞った。

このことが後の惨事を引き起こす引き金となろうとは、今の名前には知りえなかった。




「……遅ぇな」


政宗は風呂から出て直ぐ、隣の風呂場の前で名前を待ち伏せていた。
無論ドザエモンとの関わりを尋ねるためである。

それにしても、遅い。

もう十分程彼はここで立ち続けている。短気だが敵を待ち伏せるのは得意な政宗であるが、流石に何の反応もないと苛々してきた。

そもそも相手は敵ではないし、ただ話を聞くだけだ。

おまけにくしゃみが出た。鼻を啜ると、あの小うるさい部下が心配する顔が頭に浮かんできた。
説教の種をわざわざ自分で作る必要も無い。


(……明日にすっか)


そう決めて、背を預けていた柱から勢いをつけて離れる。

だがその時、奇しくも風呂場の扉が空いた。


(ふうー。いいお湯だったー)


髪をわしわしと拭きながら、名前は出てくる。

その瞬間、懐から包帯の束がするりと抜け出た。宙で掴もうとして、あえなく床に落ちる。


「あーもう」


面倒くさい、と思いながらもその場に蹲り包帯を拾う。その瞬間、影が増えたかと思うと、頭上から声を掛けられた。


「オイ」

「――」

(この。声、は……)


つい先ほど聞いた声だ。しかも今の状況では一、二を争う程聞いてはまずい、声。


「……だ、だ伊達、政宗……さん」


嫌な汗が、彼女の額から浮き出て床にぽとりと落ちた。



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