境征参加 | ナノ



本島の北、奥州の仙台城のとある一室にて。

壮麗な城の主である伊達政宗は、腹心の部下からの報告に怪訝そうな顔をしていた。


「what? 武田信玄に変な客ぅ?」

「どうやら、その様です」


部下――片倉小十郎は真剣な面持ちで頷いた。これは伊達家お抱えの忍者からの情報だ。

報告書を読んでいた政宗は顔を上げ、小十郎を見た。


「客ぐらいどうってことねぇだろうが」

「それが……よく分からないのです」

「?」

「何処の誰かや、どんな職業なのか。名前はおろか性別すら曖昧でありまして」

「Hum……」

「政宗様。これは何者かが故意に情報を撹乱しているようと思われますが」

「……撹乱、ねぇ。それが本当なら犯人は大方見当が付くけどよ」


政宗の脳裏に、あの橙色の髪の派手な忍者の顔が過ぎった。


「武田のおっさんが、あの忍使ってまで周囲にバラしたくない人物……」


政宗はしばらく黙考をしていたが、やがて悪戯っぽい光を隻眼に宿して小十郎に告げた。小十郎はそれを見て、嫌な予感がした。


「OK。ちょっくら見に行ってやろうじゃねぇか」


予感が的中し、小十郎は思わず溜息を吐いた。
こんなことになるならば教えない方がむしろ良かったのだが、何分彼は自分の主である。知らせないわけにもいかない。


「政宗様。そう簡単に城を空けられては困ります」

「んな簡単に空けてねぇだろ」

「いや、空けておられます。先日も甲斐に行ってらしたではありませんか」

「……まぁそう固いこというなって。老けるぞ、小十郎」

「誰のせいだと……!」


こめかみに青筋を浮かべた小十郎は怒鳴ろうとしたが自制した。


「……見に行って、どうなさるのですか?」

「俺は自分で見たものしか信じねぇからな」

「それでは忍があんまりでございましょう」

「俺は昔から忍が苦手なんだよ。You are understand, aren't you?」

「……異国語の意味は分かりかねますが、苦手ということは存じております。ですが、」

「あーもう! 行くっつったらいくんだよ! OK!?」


説教モードに突入しようとした小十郎に、政宗は立ち上がると勝手に旅支度を整えていく。頻繁に出かけるのでもう荷物はまとまっている。

小十郎は思わず重い溜息を吐いた。


「Happyが逃げるぜ、小十郎」


飄々と言ってのける政宗にまた彼は溜息を吐いたのだった。



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