境征参加 | ナノ



(全く、誰も彼も戦好きだなぁ……)


人気のない予備校の自習室。いつものように一人で大机に陣取って荷物を散らかしながらせっせと受験勉強をしていた名前は内心そう呟いた。

無論自分へのものではない。
現在彼女が手に持っている教科書へ、のものである。

日本史、と書かれた教科書を手に持ち、その重さに溜息をつく。


(長篠に稲荷山に姉川に……。憶えきれないってこんなの)


教科書にはひとつだけ付箋が貼られていて、おもむろに開いたそこには、俗に言う「戦国時代」のことが書かれていた。

そう。彼女の言う「こいつら」とは言うまでもなく戦国大名たちのことである。

相手はうん百年前の人間だし、ここで自分が文句を言っても仕方ないことは重々承知だが、それでも出るモンは出る。


(……土地広げるのがそんなに面白いかね)


理解しがたいものを見るような目つきで、再び教科書に目を通す。

今日だけでこの部分を五回は読んだが、どうしても国名と大名の名前がかみ合わないし、各領国における分国法もややこしくてかなわない。


(こんなもん後回し後回し!)


そう決めてしまうと、欠伸がひとつ出て眦に涙が溜まった。
眠い。昨日の夜ゲームしすぎたのがいけない。

携帯の時計を見る。昼過ぎだった。

予備校の自習室は適温に保たれているし、風邪対策で湿度もバッチリだ。
おまけに今は人も少ない。

一時間くらいなら、良いのかもしれない。


(最近あんまし寝てなかったからかな……)


しかしこんなに眠たいのは久しぶりだ。年中夜更かし(主にゲームや読書)をしているから体が慣れてしまったのかと思っていたのだが。


(まぶ、た……、おも……)


意識が遠のいて視界が暗くなる一瞬前、開きっぱなしで下敷きにしている教科書がうっすらと光った。

そんな気がした。





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