境征参加 | ナノ



質問の意図が広義すぎて、どう答えようかと彼女は戸惑った。


(何者か、なんて)


ただの女子高生で現在受験戦争真っ只中です、と言えばいいのだろうか。
先程目が覚めたばかりで胃のあたりが痛くて気分も悪く、頭が回らない。

それにしても、この目の前の男は何者だろう。
ちらり、と名前は俯いた状態で彼を覗き見た。

只ならない雰囲気を醸し出しているし、この部屋の作りも素人目でも手の込んだものと分かる。

しかも、ボディガードを雇っているのだ。

オレンジ色の髪をした男の手にある苦無を盗み見て、日本ってボディガードの銃刀所持認められてたっけなと考えていると、僧の格好をした男は威厳のある声で質問を変えてきた。


「では、何処の生まれだ?」


これならすぐに答えられる。


「……東京都、ですけど」


正直に答えたのに、男は素っ頓狂な顔をした。


「はて、そのような国はあったかのう」

「え、国?」


今度は名前が聞き返す番だった。国って、今は都道府県表記になっているはずだ。

と、すぐそばの男が口を出した。


「そんな国ないんじゃないっすか? 俺様聞いたことない」

「ふぅむ」


何言ってんの、と彼女が言い返すことはなかった。彼の声を聞いて体はがちがちに硬直してしまったのだ。
いつ刃物を向けられるか分からない相手に緊張するなという方がおかしい。

口元に蓄えている髭を弄いながら、男は再び問いかける。


「では、お主の名前を申せ」

「名字、名前です」

「ふむ。名字の者か……。しかし聞き慣れぬ名よな」


一人ふむふむと言っている男に、名前は恐る恐る質問をしてみた。


「あ、あの」

「何じゃ」


「どちら様でしょうか……」


「……なんと?」


男の目が驚愕で見開かれた。

名前の側に座る男も驚いたようである。


「お主……この儂が誰かも知らずに侵入してきおったのか?」

「え? し、侵入といいますか……。気付いたら、部屋の中にいたので……」


その部屋の内装はあまり憶えていないが、こことよく似ていたような気がする。


「……どうも妙だの。佐助、この者が申すことは本当か?」


(佐助って、言うんだ)

男が隣に座っている佐助に尋ねたので、名前も少しだけ彼を見る。

佐助はうーん、と唸りながら答えた。


「実は突然現れたんですよ、この子」

「突然……? 忍の術でそのような術はあったか?」

「俺の知る限りじゃあ『霧隠れ』か、『土遁』か、ですね。ですが……」


何の話か名前には全く分からなかった。
一拍おいて佐助は告げる。


「あんな術できんの、俺は俺様と風摩の野郎しか知りませんねぇ」

「ふぅむ……」


二人は黙り込んでしまった。

名前は凄まじくいたたまれない気持ちになった。


(い、いまいち話の内容分かんないけど、ええい! 最終手段!!)


名前はえいや! と、――土下座をした。



「し、知らぬ間といえ、見ず知らずの人のお宅に勝手に侵入してしまって、本当に申し訳ありませんでした!」

(予備校に居たはずなんだけどなぁ。……もしや夢遊病!? び、病院行こうかな……)

そんなことを脳内で考えていたら、苦笑のような低い笑い声が聞こえてきた。


「お主、本当に儂の事を知らぬようだ」

「は、い……」


男は威圧的に笑った。


「儂の名は武田信玄。この甲斐の国の領主よ」


名前は耳を疑った。


「た、けだ……、しんげん……?」



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