境征参加 | ナノ



その時、道場の開いている窓から、黒い鳥がバサバサと激しい音をたてながら侵入してきた。

その足を掴んでいるのは、なんと佐助。

黒い鳥の大きさにも驚いたが、佐助の登場方法に何よりびっくりして名前は目をむいた。

足首に掴まっている佐助の顔色は少し疲れているようにみえる。しかし慶次の姿を見つけるとくわっと目を見開いた。


「やっと見つけたー!! ちょっと前田の旦那、どういうことだよ!」


どうやら怒っているらしい佐助は、鳥の足から手を離すと軽やかに着地し、すぐさま慶次に詰め寄る。

しかしそんな佐助と慶次の間に幸村は入り込み、満面の笑みで佐助に笑いかけた。


「おお、佐助! いい頃合に!
 今から前田殿と勝負するでござる。槍を持て!」

「はいはい。全く、忍遣いが……ってそうじゃない!」


(うおお、生ノリツッコミ。始めて見た)


ハッと我に返った佐助は幸村の頼みに後でね、と投げやりに返し、再び慶次に詰め寄った。


「勝手に侵入してくれちゃって! どういうつもりだよ、前田の旦那」

「えー? 遊びにきただけじゃーん」

「遊びにきた相手が突然攻撃してくるのかっての!」

「へへへ。だってさ、新しい刀試したくてさ」

「あーもう……!!」


佐助は頭を抱えた。
その体は所々汚れていて、話の流れから察するに慶次と一戦交わったのだろうと察することが出来た。


「そういう時は文書いてから来てよね! 奇襲なんてびっくりするじゃない」

「だって急の方が楽しいだろ?」

「そういう問題じゃないんだよ、もう」


大きく溜息を吐いた佐助は、不意に名前を見つけて目を見開いた。


「名前ちゃん! いないと思ったらここにいたのか」

「うん。慶次を案内しちゃった」

「……君もほんと警戒心薄いよね。竜の旦那の件で気をつけるんじゃなかったの?」

「だって、道に迷ってるって言われたら案内するしか……」

「それが警戒心薄いって言うの! 全く。今回は前田の旦那だったから良かったものの、これが何処かの忍だったらどうするつもり?」


名前を叱る佐助の姿は母親そのものだったが、説教中の名前はつっ込まないことにした。

更に怒られかねない。ここは素直に謝っておくことにした。


「ごめんなさい」

「……ま、次から気をつけること。いい?」

「はい、お母さん」

「名前ちゃーん?」

「しまった……! つい本音が」

「馬鹿だね」


佐助の腕が素早く動いたかと思ったら、次の瞬間彼女の両頬を思いっきり引っ張っていた。

痛い。反射的に腕をのけようとしたが、びくともしなかった。


「おー、よく伸びる」

「いひゃい、いひゃいって! ゆるひてー!」

「もう不用意に他人にホイホイついていかないこと! いい?」

「ひゃい!」

「あはは変な顔ー」

「……」

「そんな顔で睨まれたって怖くないよ」

「そろそろはなひてくだひゃい……」

「あ。ごめーんごめん、忘れてた」


(ド、ドSー!?)


わざとらしくにっこりと笑ってから、佐助は手を離した。

解放された名前は涙目で両頬を押さえる。じんじんしている。きっと赤くなっているだろう。

慶次は幸村にこっそりと耳打ちした。


「……今の顔、すげぇ楽しそうだったよな」

「あ、あのような佐助、久方ぶりに見た」


しかし触らぬ神にたたりなし。二人は何を言うでもなく立っていた。

顔を押さえる彼女に佐助は満足したらしく、ようやく取り残された二人の方を向いた。


「前田の旦那、戦いたいって?」

「お、おう」

「じゃあちょっと待っててね。旦那もちゃんと武器持ってくるから大人しくしててよ」

「わ、分かった!」


面倒くさそうに肩をポキポキと鳴らしながら、彼は母屋へと歩いていった。




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