境征参加 | ナノ
翌日、目を覚ますと全てが終っていた。
伊達一行は夜が明けて直ぐ甲斐を発ったらしい。おかげで顔のことを小十郎に説明しなくて済んだ。
しかし。
「……へ? 七日後に、来るんですか?」
朝ごはんを食べている時そんなことを言われたので、思わず箸を取り落としてしまった。
信玄は渋い顔だ。
「うむ。今朝方急に変更を申し出られた」
「へ、へぇー……」
(確実に私のせいだ……)
「理由は申されなかったが……名前」
「うっ」
「佐助から聞いておるぞ」
(バレてる!)
「……すみません」
政宗に顔を見られてしまったのは不運とはいえ自分のミスだ。信玄に対して弁解する気も起こらなかった。
殊勝な名前に信玄は苦笑すると、茶を啜って、もうよい、と言った。
「伊達は敵国でなくなるのだから、そう憂慮することでもなかろう」
「はぁ」
「案ずるな、お主のことをそう簡単に教えるつもりはない」
そう笑いながら言って、名前の頭をわしわしと撫でる。
信玄の手は、その気になれば人一人の頭くらい簡単に捻り潰せるくらい大きくて、そして温かかった。
結構強めに撫でられているが、名前も思わず笑顔になる。こうやって頭を撫でられるのはいつぶりだろうか。
その光景を幸村が物欲しそうに眺めていた。
平和な朝である。
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